人間関係とFine Tuning

弦楽器を演奏する前にやらなければならない作業に、"tuning"(チューニング、調弦、調律)がある。ギターを例にとれば、6弦の各々の音が正しい高さになっているかどうかをチェックし、糸巻をいじって調整する作業である。
正しいチューニングは、素晴らしい演奏の土台となるが、弦は湿度や温度によって伸縮するので、事前に入念にやっておかないと演奏を始めた途端に他の楽器との不協和音に悩まされ、演奏を止めたくなる。
 
大学時代、友人の兄の結婚披露宴に呼ばれ、仲間と曲を演奏したことがあるが、エレキギターのチューニングが不調で辛い思いをした。恐らくは安物のギターのせいで元々ネックが反るなどして音が狂っていたのだと思うが、音楽の得意な仲間からチューニングの悪さを責められた。披露宴の司会を務めた山本コータロー岬めぐり等のヒット曲がある)からは、「プロになろうなどとは思わないように」とマイク越しに釘を刺されたことを覚えている。
 
音の調整は本当に難しい。絶対音感などない私にとっては、何分の一音の違いを聞き分けられる耳があるとも思えないが、コード(和音)を弾いたときなどにすっきりした感じがしないとき、チューニングが狂っていることだけは感覚的に分かる。
 
人間関係にも、Tuningは重要だと思う。サラリーマンを長くやって感じることである。
 
セオリー通りに正しい人事制度や評価制度を導入しても、従業員が満足するかどうかは分からない。満足度を左右するのは、むしろ、日々職場で顔を合わせる上司・部下・同僚との関係性である。どんなに「立派な」上司、部下、同僚に囲まれていたとしても、(せっかちか、のんびりか等の)相性が合わないと、会社生活は不幸になるだろう。いわゆる"tuning"が合っていないのである。
「何分(なんぶん)の一音(いちおん)」のずれがあることで、「あの人とは一緒に仕事をしたくない、同じ空気を吸いたくない」ということにもなる。
 
最新の心理学の理論を使って合わない理由を説明することはできるかもしれないが、私は、要するに、相性(Chemistry)とfine tuning(微調整)の問題だと思っている。これが合わない人とは物理的な距離を取っておくことが一つの解決方法になる。中小企業では社内異動の範囲が限られているので、会社を辞めて行くことにもなる。残念だが、悶々と暗い日々を送るよりはましである。