育休中のリスキリングは、おかしなことなのか?

岸田文雄首相が2023年1月27日の参院本会議で、賃金上昇やキャリアアップに向け、産休・育休中のリスキリング(学び直し)を「後押しする」と答弁したことが批判されている。これを受けて、首相は30日の国会答弁で、「あらゆるライフステージにおいて、本人が希望したならばリスキリングに取り組める環境整備を強化していくことが重要だという趣旨で申し上げた」と釈明した。
 
育休復帰直後にキャリアアップになる転職をした例などを見聞している筆者からすれば、首相の答弁は至極まっとうなことを言っているように思える。子育ては大変な仕事である。しかし、自らのキャリアを成長させたいと「希望する」人にとって、会社に出勤せず自分の裁量で時間を使える環境下で、リスキリングの勉強をしたり、次のステップのための転職活動をするのは本人の選択の問題であり、周囲が、「そんなことできるわけはない! 子育ての大変さをなんと心得る!?」とエモーショナルになる話でもないのではないだろうか。
 
雇用保険制度には「教育訓練給付」というものがあり、現状では14000講座を対象に20%から70%の範囲で費用補助がなされている。充実したリスキリングの支援システムであり、筆者のように雇用保険に加入していない個人事業主は対象外だが、うらやましくも思える。

https://lnkd.in/gKb6tJ44
 
ところで、厚生労働省は、新型コロナウイルス禍に伴う雇用調整助成金の利用増による保険財政圧迫を解消するため、労使が払う雇用保険料率を、2023年4月から0.2%引き上げて1.55%にする方針を固めた。そのうち労働者の負担は現在の0.5%から0.6%となる。給与が30万円の者であれば、0.6%は月額1,800円の保険料になる。仮に30万円の教育研修講座に参加して20%の補助を受ければ受講料のうち6万円が戻ってくることになり、年間雇用保険料(21,600円)をはるかに上回る。
 
雇用保険制度が、失業給付だけでなくリスキリングも強力にサポートしていることは、今後の日本の労働者の未来を占う上でポジティブなインパクトを持つと思われる。
もっと積極的に国会の場などでPRされても良いのではないかと感じている。
 
#雇用保険 #教育訓練給付 #リスキリング #厚生労働省 #岸田首相

メンバーシップ型におけるダイバーシティの課題(年齢その他・・・)

性別、年齢、障がい、国籍その他、個々の違いを受け入れ、認め合い、生かしていく・・・「ダイバーシティ&インクルージョン」が重んじられる流れにあるのはよいことだが、日本企業の多くは、依然として、「年齢(正確には入社年次)」に呪縛されているのではないか。
新規一括採用を入り口に、同期入社同士の競争を通じて社内序列と処遇を定めるシステムと運用の終着点が給与ダウンとセットの定年後再雇用制度になる。日本的雇用システムは、ところてんに似たところがあり、ひとまとめに入れたものを一定年数経過とともに一斉に排出することで組織の新陳代謝を保つ「順送りの」仕組みであり、多くの欧米諸国の雇用慣行・システムとは大きく異なる。


「年齢」「入社年次」に縛られたメンバーシップ型雇用システムをダイバーシティに富んだシステムに変えていくのは容易ではない。メンバーシップ型は、長い間、「男社会」、かつ、「日本人」を前提にしたシステムでもあったからである。継続するシステムがマインドセットを固定化する。こられの様々な属性にこだわらない柔軟な人事システムを構築できるかどうかが、日本企業の復活の鍵である。

 

https://suzukit-syaroshi.jimdofree.com/2020/06/26/%E7%B5%8C%E5%9B%A3%E9%80%A3%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA%E5%AF%84%E7%A8%BF-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9E%8B%E9%9B%87%E7%94%A8%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%B0%86%E6%9D%A5%E5%B1%95%E6%9C%9B-%EF%BC%98/


#ダイバーシティ #年齢 #日本的雇用システム #ジョブ型 #メンバーシップ型 

 

キャリア形成には社内ローテーションだけでは不十分

欧米多国籍企業では、一度社外に出た人材が高いポジション(例:CEO、EVP)で呼び戻されたり、その後にまたクビになったりすることが日常的に起きている。なかなか刺激的であり、自分も頑張ろうという気持ちにもなる。

 

日本企業の社内ローテーションで育ててもらった期間の方が、外資系企業での経験より長い筆者としては、言いにくいことではあるが、社内ローテーションのみで、目指すキャリアを創ってくことは難しいと感じている(その会社の社長や役員になることが唯一の目標である人を除く)。色々な経験と言っても一企業グループ内の同質的な文化の中でのそれであり、厳しいグローバルビジネス競争の中でタフに闘える人材になれるかどうかは分からない。

 

優秀な人材であれば、どんな理由でどこに行ったとしても、成長した後に呼び戻すための労力を惜しまない会社こそがこれからのグローバル競争の中で生き残る会社であると感じている。

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#社内ローテーション #転職 #日本的雇用システム #ジョブ型 #メンバーシップ型 

 

年功型賃金とジョブ型賃金

職業生活を始めた頃、10年ほど上の社員の給与・賞与は右肩上がりに増えており、先輩からは「順送りだから・・・」と言われた。だが、日本経済と会社の業績は停滞の時代に入り、順送りの恩恵を享受することはなかった。日本型雇用システムの特徴である年功型賃金は、若い間は働き(貢献)より低い報酬を支払い、勤続や年齢の上昇につれ働き(貢献)を超える報酬を支払う報酬システムだが、会社の業績が伸びなければ実現できない。

 

欧米企業の「ジョブ型賃金」は、「職務(ジョブ)」ごとに一定レンジ内で報酬を設定するから、年齢や勤続年数に関係なく、職務の大きさ(ジョブ・サイズ)に応じた賃金が支払われる。しかし、長期にわたり賃金が増える保証はなく、パフォーマンスが低ければいつでも追い出される。

 

人事・賃金制度は、その時のビジネス環境や戦略に基づき変えていくべきと筆者は考えるが、入社後数年間の職業能力育成期間を別にすれば、日本における年功型賃金の歴史的意義は終わったのではないかと感じている。

 

学校を出て、運よく「正社員」のコースに乗れた者だけが、パフォーマンスに難があっても右肩上がりに賃金が上がる一方で、「非正規社員」、「中途入社社員」、出産・育児で職業生活を中断した「女性社員」、60才以降の「高年齢者」などの賃金を低く抑えるシステムが日本全体の生産性を復活させることができるとは到底思えない。その点で、日本の立法・行政が示した「同一価値労働同一賃金」に向けた漸進的な取り組みには意義があるが、労働者のマインドセットが変わることが必要であり、時間がかかると思われる。

https://lnkd.in/gZHwssrF


#年功型賃金 #ジョブ型賃金 #日本的雇用システム #ジョブ型 #メンバーシップ型 #マインドセット

 

日本企業における早期退職

沈没船ジョークというものがある。

豪華客船が航海の最中に沈みだしたが救命ボートが足りない。船長は乗客たちに速やかに船から脱出して海に飛び込ませるために、各々の外国人乗客にこう言った(以下、一部の国のみ抜粋)。 

アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄になれる」

フランス人には「飛び込むな!」

日本人には「皆さんそうしています!」

 

新型コロナウイルス禍が直撃したアパレル、観光、鉄道業界を含め、上場企業が2021年に募った希望退職者数は前年に続き1万5000人を上回った。足元ではオミクロン型が猛威を振るっており、22年も募集人数や社数が高水準になる可能性がある。(日経新聞電子版1月20日を参考にまとめた)

 

早期退職といわれるものの中には、自ら手を挙げた者だけを対象にするものと、実質的に退職勧奨的な要素をも含むものの2種類があるが、問題は後者の方である。

平時は、職場に点在するローパフォーマーを放置したまま、経営不振になると、年齢基準等の仕切りによる全社一律の早期退職を実施する日本企業は多い。みんなが同じならリストラの痛みは減るかもしれないが、日頃の改善指導を避け続け、突然降ってわいた自然災害のように一律の早期退職を行い、有能な人材まで失ってしまう日本企業に比べたら、日常的にきめ細かな人員調整と退出管理をする欧米企業の方が、従業員に対してよほど親切な扱いをしているのではないかとも思えてくる。


経団連タイムズ寄稿「日本型雇用システムの将来展望(第5回)」
https://suzukit-syaroshi.jimdofree.com/2020/05/31/%E7%B5%8C%E5%9B%A3%E9%80%A3%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA%E5%AF%84%E7%A8%BF-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9E%8B%E9%9B%87%E7%94%A8%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%B0%86%E6%9D%A5%E5%B1%95%E6%9C%9B-5/


#早期退職 #人員調整 #日本的雇用システム #ジョブ型 #メンバーシップ型

 

新卒一括採用と中途採用

2022年春闘がスタートした。本日(2月3日)付けの読売新聞に、経団連の大橋徹二副会長のコメントが載っていた。「・・・日本型雇用は、新卒一括採用や年功型賃金などを特徴とするが、決して悪い制度ではなかった。そのおかげで日本の若年層の失業率が他国に比べて格段に低いのは間違いない。ただ、グローバル化やデジタル化が進む中、(職務内容や求める能力を明確化する)ジョブ型雇用も取り入れ、専門家やアイディアにたけた人と一緒に働くことも必要だ・・・」

 

日本型雇用システムを基軸として、部分的にジョブ型雇用も取り入れるという考え方のようだが、ジョブ型雇用の前提条件は職務毎の要件を明確にした「職務記述書(Job Description)」を全てのポジションについて整備することである。日本の大企業で「職務記述書(JD)」をきちんと準備している会社がどれほどあるだろうか? このようなインフラ整備の労力を惜しんだまま、新規一括採用が王道で、中途採用(=ジョブ型)は空席ポジションを埋める急場しのぎや、均一すぎる会社のカルチャーを変えるカンフル剤程度にしか捉えない考え方に陥らないことを切に願うものである。

 


経団連タイムズ寄稿「日本型雇用システムの将来展望(第4回)」
https://suzukit-syaroshi.jimdofree.com/2020/05/22/%E7%B5%8C%E5%9B%A3%E9%80%A3%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA%E5%AF%84%E7%A8%BF-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9E%8B%E9%9B%87%E7%94%A8%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%B0%86%E6%9D%A5%E5%B1%95%E6%9C%9B-%EF%BC%94/


#メンバーシップ型 #ジョブ型 #日本的雇用システム #新卒一括採用 #中途採用

 

メンバーシップ型雇用システムのPros&Cons(制度・運用とマインドセット)

メンバーシップ型(日本型)雇用システムの制度・運用面の特徴の多くは、パフォーマンスと報酬(Pay)の関係を長期間で決済しようとするところから来ている。自らの育成をじっくり考える社員にとっては、安定した処遇のゆえに達成の難しそうな課題にも果敢にチャレンジングする気になれるプラス面があるものの、内部登用が基本で、外部採用を穴埋めの位置づけにすることが多様性(Diversity)の阻害要因になり、若くて成長意欲のある社員の転職理由にもなる。過度の安定は、成長ストップと表裏一体の関係となる。

 

 銀行の支店に配属されて間もない頃、不慣れな札勘をやっているときに、若手の女性社員が中年の男性社員に「何をしているときが一番幸せ?」と聞いているのが耳に入ってきた。答えは、「家に帰って週刊誌を読んでいるときさぁ・・・」。認識の甘さゆえに、最初の就職先を3ヶ月で辞めた筆者に語る資格はないかもしれないが、この牧歌的なまったり感を外資系で経験したことはない。雇用保障にかかわる緊張感が日本企業とはまるで違うのである。

 

メンバーシップ型とジョブ型には、人事制度・運用面で対照的な違いがある(以下の拙稿の表を参照)。ジョブ型が基本の外資系企業は、中途入社が当たり前で、評価に年齢や勤続年数は関係ない。入社して成果を挙げればすぐに昇進や昇給が行われる一方で、半年経っても一人前にならなかったら退出勧告を受けかねない。どのような環境で働くかでマインドセットが変わってくることを体感した外資系勤務経験であった。

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経団連タイムズ寄稿「日本型雇用システムの将来展望(第3回)」
https://suzukit-syaroshi.jimdofree.com/2020/04/26/%E7%B5%8C%E5%9B%A3%E9%80%A3%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA%E5%AF%84%E7%A8%BF-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9E%8B%E9%9B%87%E7%94%A8%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%B0%86%E6%9D%A5%E5%B1%95%E6%9C%9B-%EF%BC%93/


#メンバーシップ型 #ジョブ型 #日本的雇用システム #マインドセット