新会社人間主義ー上司が部下を評価するということ

上司と部下の関係はどういうものか。
 
建前としては、上司は部下を育成・指導・評価しながらその成長を促し、組織として最大の生産性をあげる役割を担っている。ただしこれは、上司が総合的に見て部下よりも知識・経験・洞察力等の点で相当勝っており、教えるべき存在であることを前提としている。現実には、部下を十分に育てられるほど上司が優秀なケースばかりとは限らない。情報化時代を迎えた今日では、仕事をこなす上で必須のスキル(コンピュータや語学など)は若者の方が秀でていることもある。
 
師と仰ぐような上司に巡り合えれば幸せかもしれないが、私は、上司と部下の一般的な関係は、むしろ競争者としての「一種の緊張関係」ではないかと思っている。つまり、「仕事」を媒介にしながらどちらが良いパフォーマンスを挙げられるかを競い合う関係である。「部下が常に上司のレベルを超えられない」という仮説が成り立つなら、その組織のパフォーマンスは上司の能力で規定されてしまうはずだが、実際にはそうでもない。組織の中で「鳶が鷹を生む」ことは十分にあり、年功的処遇がまだまだ残っている現状では、部下の方が優秀なケースは多いと思われる。
 
ところで、部下に仕事の割り付けをする権限は上司にある。自分でやりたくない、あるいは、できない仕事を部下に押し付けるのも上司の権限である。人事考課の解説書などを見ると、部下が仕事で良い結果を出せなかった場合についても、しっかりとフィードバックをしなければならないとある。
しかし、部下に仕事の割り付けをしたのは上司であり、途中で適切なフォローをする責務も上司にある。なのに、実際には、適切なフォローをしなかったということもあるだろう。
 

「ネガティブフィードバックはまるで自分の失敗を評価しているようなものであり、事務的に、客観的に行うというわけにはいかない」という本音が管理者の口から出てくることもある。この悩みは、正直な感想であり、こういった問題を避けて評価を考えることはできないのである。
 (注 ネガティブフィードバック:目標管理において、不十分な成果しか出なかった場合にも、その評価をはっきりと部下に伝えること)


もっとも、こんな感想を持つのは良心的な上司であり、仕事を押し付け悪い結果を部下に押し付けて平然としている上司もいるかもしれない。
 
いずれにせよ、部下と上司には「一種の緊張関係」があるということだ。これは、「支配と服従」という表面的な形に潜む現実の姿である。我々は労働をして対価を受け取る契約で会社に勤めているのであって、偶々コンビを組まされた上司と必ずしも師弟関係を結ぶ必要はない。良い人に巡り合ったら、どんどん教えを乞い吸収していった方が良いが、そうでなければ上司と競争するつもりで頑張ることだ。そうすることで、自分を成長させ、自らの市場価値を高めていくことができる。

新「会社人間」主義-私の考える「ホワイトカラー」- 1999年1月より

人材の流動性が激しい外資系に転じてみて、今更のように、上司と部下の緊張関係について考えさせられる日々である。

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(イラスト作成:霧、無断転載を禁ず)