娘のひとこと

結婚して最初の子供を授かってから20数年経ったが、その内の3分の2は単身赴任だった。振り返ると、家族と離れて暮したことが果たして良かったのかと自責の念にかられることがある。

かつて、会社の上司(役員)から「子供は、僕ら夫婦の最高傑作なんだよ。世界中で、他のどこにもいない作品なんだから」「家族は一緒に暮すのがいいんだよ」と言われた。その人は単身赴任で海外に何度も行ったグローバル経営の第一人者であるが、家庭を犠牲にして過酷な勤務を続けてきただけに重みのある言葉だ。

十数年前、娘が5歳の時、週末に自宅に戻った私に突然こう言った。

○○(娘の名前)、大人になりたくない」
「どうして?」
「大人になると会社に行かなければならないから」
「どうして、会社に行きたくないの?」
「だって、会社ってつまらないところだから」
「どうして、つまらないって分かるの?」
「だって、おもちゃがないんだもん!」

私の普段の様子から、会社は決して面白いところではないと直感したのだと分かった。そんな風にしか、自分の姿を子供に見せてやれなかったのは、親として情けなくもあった。


時は流れ、漫画家・イラストレータの娘と合作で本を出すことになった。

この世界には、自分の好きな道を追求するのに、会社という器が必要ない人がいる。収入は安定しないが、素晴らしくクリエイティブな世界に挑戦し続ける人達。

やっぱり、娘は会社には勤めなくて良かったと思う。

イメージ 1

(イラスト作成:葉ヶ竹きり)