新「会社人間」主義ー成長の方程式

あなたは、会社生活で自分に何を付加していくつもりだろうか。長くいるつもりなら、成長する手だてを考えなければ損である。
会社の中で個人が成長するということは、自分の仕事において立派な成果が出せるようなプロになるということであるけれども、成果は何によって決まってくるのだろうか。

行動科学者クルト・レビンの方程式: B =f  ( p ・ e  )
                                                結果  個人の 環境
                     能力

クルト・レビンの式によれば、結果(成果)は個人の能力と環境の掛け算で決まってくる。これはたやすく理解できることであろう。個人の能力が十分に発揮できるかどうかは、上司・部下の関係、職場環境、会社の経営方針等によって変わってくるということである。スペースシャトルを設計する能力を持っていても、たこ焼き屋へ就職したのでは、十分に力を発揮することは難しい。能力があってもそれを使い切るチャンス(場)が与えられなければ、発揮することはできないのである。

また、個人の能力の伸長も環境によって大きく変わってくる。もちろん自分自身の日々の研鑚が能力伸長の大前提であるが、素晴らしい上司に巡り合い、その指導を日々のOJTの形で受けることができれば、成長は更に早まるのである。

もう一つ大事なことは、努力が正しい方向に向かって傾注されなければ成果は生まれないということだ。サラリーマンの中には、いつも忙しく働いているのにさっぱり成果を出せない人がいる。それは、本人に元々素質がないというよりも、努力を振り向ける方向が間違っていることに起因する場合が多いように思われる。水道管の破損箇所を探す為に、手当たり次第に道路に穴を掘っては埋めるような場合が多いのである。

成果の要因から外的な環境要因を除き、個人の要因だけを分解すれば以下のようになる。

成果=個人の素質(=能力)×考え方(=力を注ぐ方向)×やる気(=力を注ぐ量)

3つの要素の中で、周りに理解されやすく、しかも最初の内は賞賛されやすいのは、「やる気」である。「彼は何事にも積極的で前向きだ」という賛辞は、仕事で一人前になる前によく受ける評価である。「やる気」を測る手段として安直な手立ては、労力即ち「労働時間の長さ」であり、これは周りからも見えやすい。新人時代から一生懸命残業していると「やる気」があると思われる。

「個人の素質(専門知識や基本的な思考力など)」は、読書等によってある程度向上させることはできるだろう。しかし、「考え方」というものは周りには見えにくく、これを正しい方向に導くのは容易ではない。毎日穴を掘っては埋める作業が意味のないことだと分からせることは難しい。「何もしないよりは何かをしたほうがまし」だということは一般に受け入れられている価値観だからである。しかし、手当たり次第に穴を掘ることだけで良いのかを考えることが、「やる気」を発揮する前になされなければならないステップなのだ。
「考え方」は、価値観や人生観に通じるものであり、一般化して説明することは難しいが、誰かが正しく「考え」実践していかねば会社も社会も発展していかない。周囲を見渡して、誰が正しく考えているのかを見極めた上でそれに倣っていくことから始めるのが近道である。

もう一つ付け加えておきたい。定年は60歳だからそれまでに緩慢に成長していけば良いという考え方もあるが、経験則に照らせば成長のカーブが直線的に伸びていくことは例外に思える。職業生活を始めてから最初の10年、長くても15年くらいの間には、意識的に努力を続けていれば飛躍的な成長を遂げる時期がやってくるものである。成長の契機は、仕事や職場の変更、上司の交代、自分自身の内なる変化など色々であろう。この時期こそ、職業生活、いや人生においての頑張り時なのである。
逆に言えば、この時期にさしたる変化が起こらなかった人が、その後の10年・20年の間に大きく成長するには相当の努力が必要と思う(同じことを10年やってもさしたる成長がないとすれば、よほど仕事とのマッチングが悪いか、運が悪いか、本人の怠慢によるものだろうから、その後の人生も同じように流れてしまう可能性が高いと思う)。
(新「会社人間」主義ー私の考える「ホワイトカラー」 1999年1月 より)

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