採用雑感(1)ー私の就職活動

数十年前、自分が就職活動をしたときの話をする。

当時の就職協定では、10月1日が正式な企業への訪問解禁日で、少なくとも大手の都市銀行長期信用銀行はそれを守っていた(メーカーの中にはフライングをするところもあったようだ)。意中の会社から学生が内定をもらう為には、10月1日から数日間の間に毎日その会社を訪問し、順調にステップが進めば、事実上の内定がその数日間で決まってしまうと言われていたので必死だった。

働くということにおよそ実感の持てなかったいい加減な自分であったが、とりあえず、世間体がよさそうな長期信用銀行都市銀行数校に絞って、せっせと訪問を繰り返した。人気企業を訪問すると10分の面接のために1~2時間くらい待たされるのはざらなので、一日に4~5社回るのがやっとで、夕方になる頃にはくたくたになっていた。

10月4日頃だったと思うが、第三志望くらいの関西系銀行を午後一番で訪問すると、30分待たされては別の部屋に案内され、また待たされるということを繰り返しているうちに夕方になってしまった。何回も所定の様式で履歴書を作成させられ、あげくの果てには、後付けでインクの色が違う(青ではなく黒でと言われた)と難癖をつけられ書き直すように言われた。これがいわゆる「拘束(こうそく)」だと気づいて担当者に食ってかかったときは既に遅しで、意中の企業を訪問する時間はなくなっていた。

結局、その銀行には入社したものの、数か月で退職した。

入社前から信頼関係を持てない組織にいられるはずがないのは、今から思えば当然のことであるが、当時の若造の身にしてみれば、世の中というものはこんなにもくだらないものなのかと、虚無感と絶望感に襲われたものである。組織から命令されれば、ここに勤めるサラリーマンは平気でだましのようなことをするのだなと思った。