採用雑感(6)-外資への応募者の平均転職回数

外資系企業で採用面接をしていると、日本の大企業のそれとは比べものにならないくらい、転職回数の多い人に出くわす。7~8回はざらで、10回なんている人もいる(※日本の中小や零細企業に勤めている方々には、会社の都合で余儀なく転職を繰り返さざるを得ない人も多いと思う。このエッセイの趣旨が、転職の多さを非難する趣旨ではないことを予めお断りしておく)。

1社の在籍期間は2年前後が標準で、5~6年勤める例もあるが、3ヶ月程度で辞めてしまった例も入っている。日本の有名企業に10年前後勤めてから外資に移って以降、転々とさまようケースも多い。

気になるのは転職理由であるが、大雑把に整理すると以下のようになる(本人の口から出た表現だけでなく、筆者の想像と解釈を加えた表現である):

1.日本の大企業の官僚的な体質への嫌気、順番待ちで偉くなることを待ちきれなくなった、自分をもっと成長させる環境で働きたい。
2.人材紹介会社からのヘッドハンティング
3.知人の紹介:例えば、先に転職した職場の先輩・上司等からの誘いといったケース。
4.人事異動により交代した社長や上司が、自分の目指す方向性と合わなくなった。要は、上とうまくやれないということだが、上司が代わるときは社外から息のかかったものを集団で連れてくることもあるので厄介だ。
5.「やりきった感」:今の会社では色々な経験を積み、「やりきった感」があるので、新天地でチャレンジしたいと言う人もいる。社長をやったのなら分かるが、それ以外でやりきった感など得られるものだろうか?(本当なら、わが社に入ってもしばらくすると「やりきった感」を胸に転職するのだろう)。もっと正直に、「これ以上今の会社にいても偉くなれる可能性はないので」と言ってもらった方が分かりやすくて採ろうという気持ちになる。正直さも、大事な人間性のひとつである。
6.ブラック企業:過剰なサービス労働や、コンプライアンス違反等の状況に耐えられなくなった。
7.会社の業績悪化、リストラ

これらの理由を組み合わせると7~8回の転職理由は簡単に説明がつく。

問題は、頻繁に転職を繰り返して専門的な職業能力が身につくのかという点と、人間関係やコミュニケーションは大丈夫かという点である。
本人の弁だけを聞いていると、悪いのは他人や環境で、自分は悪くない(他責)、になる。
だが、本当にそうだろうか? 自分の人生を決める責任は最終的には自分にあるのではないか。そういう振り返りが出来る人なら、今度こそ腰を落ち着けて会社で頑張ろうという気になるだろうが、そうでない限り、ちょっとでも気にいらないことがあればまた辞めていくだろう。

会社に不満があって辞めていった営業課長が2ヶ月で戻ってきたケースがある。
聞けば、入社した日に「わが社は売却が決まり、皆さんの職場はなくなる」と通告されたそうだ。採用面接の段階でそんな情報も持たずに採用をやらされていた日本法人の人事トップの顔を想像すると恐ろしくなるが、辞めた本人にも責任なしとは言えまい(わが社は「去る者は追わず、来る者は拒まず」の方針で採用したが、あとは本人次第である)。

他方、不満があって米国系外資系企業に移り、年収が100万円以上アップしたものの、極度の個人主義でチームワークのないカルチャーに失望し、「再び〇〇のチームで働かせてほしい」と頭を下げて戻って来た者もいる。年収は以前の水準に戻しての採用だったが、今は、水を得た魚のごとく活躍している。

隣の芝生は青く見える。
本当に青いこともあるが、そうでないこともある。
決めるのは本人だが、直観や感情だけでなく、忍耐力も働かせながら一歩ずつ歩んでいくのが人生の要諦かもしれない。
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(ここに記載した文章は全て筆者のオリジナルであり、事前の承諾なき無断転載を固く禁じます。イラスト作成は、「霧」のオリジナルであり、事前の承諾なき無断転載を固く禁じます。)