新「会社人間」主義ー大企業病

大きな会社に長く勤めていると、会社のブランドや名声が、自分の価値そのものだと錯覚してしまうことがある。会社の看板を背負って注文を取っていることを忘れてしまい、あたかも自分ひとりの力でやっているような気になってしまう。

現実には、大きな組織の中で個人に与えられる役割は限定されている。分業である。大きな会社に入って、人事も経理も営業も研究開発も経験することは稀である。中小企業では、分業などさせている余裕はないから、何でもやらせる(私の父は、零細建材販売店経理と営業、ときには現場作業までやっていた)。人材を使い切るという意味ではむしろ進んでいる。大企業のサラリーマンはつぶしがきかないというのはこの辺の事情を指している。

大企業に籍を置きながら、マルチに役割をこなして自らを成長させるチャンスもある。国内外の子会社への出向である。子会社では多くの人員を抱えていないから、何でもやらされるかわりに、自分の責任で大きな判断を下せる場面も出てくる。特に、海外会社に赴任すると、ポストは2ランクくらい上がるのが普通である。国内ではヒラに過ぎなかった者が、大勢の従業員を率いるマネージャーになるのである。海外では、相談できる日本人は限られている。ピラミッド組織での分業に慣れっこになった人間には、何もかも自分で決定し責任を取ることに、最初はとまどいを感じるかもしれないが、意欲と情熱(パッション)のある者には、やりがいのある経験となる。あなたを大きくするチャンスである。

ただし、あまりに適応し過ぎて思う存分に暴れてくると、親会社に復帰したときには、旧態依然の複雑かつ細分化された組織に順応できなくなってしまうこともある(逆カルチャーショック)。
・・・新「会社人間」主義ー私の考える「ホワイトカラー」- 1999年1月 より)

採用面接をしていると、海外から帰国した後の旧態依然とした国内事情に嫌気がさして転職してくる人に接することが多いが、要は、自分次第だと思う。現状が嫌で飛び出すという動機だけではどこに行ってもあまり成功はしないだろう。自分に何ができるか、何をやりたいかをしっかりと把握して行動に移すことである。でないと、大企業でロイヤルゼリーのように保護されていたことに気づいて後悔することにもなりかねない。

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