新「会社人間」主義ー新入社員のマナー

大学を出ると、通常は総合職、つまり幹部職員候補として採用される。もっとも、女子大出身だと、まだまだ補助職(一般職・事務職)として採用されることが多いかもしれない(今後は徐々に変わっていくと思うが)。
 
大学でどんなに高級なことを学んだとしても、そのままでは使えない机上の学問である。実業の社会に足を踏み入れた新人が最初に出来ることといえば、言葉遣いや立ち居振る舞いに注意を払って、先輩諸兄に早く仲間として認知してもらうよう努力することしかない。
 
奴隷のように盲従せよと言っているのではない。会社に限らず、どんな組織に入る場合にも、新入りの方からまずは周りに受け入れてもらう努力をした方が良いし、それが賢明な方法だと言っている。
 
大学の同級で大蔵省に入った友人は、1年目はコピー取りばかりさせられていた。電力会社の支店に配属された友人は、朝一番に出社し、皆の机の雑巾がけをするのが日課だった(彼は2年後、本社に転勤した)。
 

さすがに今はこのような慣行はなくなっていると思うが、かつてはあった。愚かな慣行だと一笑に付してしまうのは簡単だが、よくよく考えてみれば、エリートが人格的にも周囲の尊敬を集めるに足るかどうかをチェックする踏み絵と解釈することもできる。優秀であることは、やがて仕事で証明できるようになる。仕事もできないうちから、「私は〇〇大学出身です。コピー取りなんかやってられません。お茶汲みなんかできませんョ。」と言っているようではダメなのである。教えてもらわなければ何もできないという点では、暫くの間は、赤ん坊のようなものだ。早く仕事を覚えたいのなら、まずは、周りの人に可愛がってもらうための真摯な努力が必要である。

自身の失敗談。
銀行の支店というところは、お金に囲まれているのでなんとも窮屈に感じたものだが、お昼になると、二階に上がって定食を急いで平らげた後テレビを見る時間が多少はあった。ちょうど六大学野球をやっており、高卒のベテラン社員が「君のところの大学が出ているよ。」と話を向けてくれた。元来野球というものに興味がなかった私は、「そうですか。」とだけ答えてしまったが、この素っ気ない返しが良くなかった。後で、飲み会に連れていかれて、散々責められた。「せっかく話題を向けてやったのに!(可愛げのないやつだ!)」と。

 
学校で学んだ知識はいずれ必ず役に立つ。「学校で教わる」ことは、種々の専門的なことがらについての「索引」を確認する作業だと思っている。後で深く追究したくなるときに備えて、どこをどうつつけば調べることができるかを予め確認しておく作業なのだと思う。
 

会社の仕事にも、法律や科学・技術など専門性の高い分野は多いが、まずは実務の流れを押さえるのが先決である。これに習熟するまでの間は、しばし最高学府を出たという誇りをタンスの奥にしまっておくにしくはない。やがて、学生時代に学んだ索引を引っ張り出す時期が来る。10年も先ではなく、1・2年後のことである。
(新「会社人間」主義ー私の考える「ホワイトカラー」 19991月 より)

 
後日談。大蔵省の友人は他省庁等でも活躍した後に財務省の審議官になった。電力会社の友人は常務執行役として今も頑張っている。二人とも優秀なだけではなく、素晴らしい人格者である。
 
(ここに記載した文章は全て筆者のオリジナルであり、事前の承諾なき無断転載を固く禁じます。)