外資で働く(6)-英語

日系企業に30年勤めた後、欧州系企業に転じて5年近くになる。


グローバルを標榜する日本企業の現実は(例外もあるだろうが)、英語のできない上司のサポートをさせられる英語人材が便利屋として消費され、出世のしにくい構造になっていると感じる。外資系に転じて驚いたのは、ここでも上級管理職を除けば、従業員の英語レベは低いということであった。理由はいくつかあると思う。

1.必要性:外資系企業のターゲットとする市場は日本であり、顧客は日本人であるから、日々の業務では英語を使う必要が少ない。

2.動機付け:人事考課は仕事の成果に基づき行われるのが基本。若いうちは業務で成績をあげれば昇進できるから、英語を真面目にやろうという気持ちが起きにくい。昇進してから、突然、英語の使用を求められて慌てることになる。

3.基礎学力:語学力は基礎学力にリンクする。日本の企業ピラミッド構造の中では、日系大企業に優秀人材が集まり、中小企業主体の外資系には学力の高い人材は相対的に集まりにくい。

4.シャイな性格: TV等では海外の情報番組が溢れており、多くの日本人は喜んで見ている。しかし、顔と顔を合わせて、英語でコミュニケーションを取るのは引いてしまう。「通じなかったらどうしよう、綺麗な発音でなく馬鹿にされたらどうしよう」などと思ってしまうからだ。国連事務総長など、英語ネイティブでない海外の要人の英語を聞いてみれば、英語は通じればOKということが分かりそうなものだが、多くの日本人にとって、英会話学校で教わる「完璧な」英語が話せないことは「恥」になってしまうのである。

日本を代表する超大企業が主催する、2週間のグローバルリーダー育成研修に参加したことがある。日本人・外国人が半々で、業界を代表する世界の一流企業出身者が参加し、講師はハーバードビジネススクールの教授連。


プログラムは、インド人や西洋人を中心に白熱した議論で満たされたが、概して、日本人を含む東洋系は大人しかった。参加者の中に、知人の日本人で米国勤務経験が5年、TOEICは950点以上の人がいたが、研修期間中、一言も発言がなかった。彼よりは英語力で劣ると思われる日本人がそれなりに頑張って発言する中で、2週間沈黙を守り続けたのが不思議でもあった。研修が終わった後、一杯飲みながら「あなたほどの人がなぜ、一言も発言しなかったのですか?」と聞くと、「いやいや、私が発言しようとすると、いつも〇〇さんが先に言いたいことを言ってしまうので・・・」という返答。


本当の理由は、「こんなことを言って恥を書きたくない」というプライドと、この研修期間を大過なくやり過ごせば良い、という保身によるものだろうと思う。会議(米国流の研修は、会議の一種である)は発言しなければ出席している意味がないのにと思う。日本人の学校秀才にはいまだにこのような人が多いのではないだろうか(数年後に彼は執行役員に昇進した)。


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