外資で働く(8)-人材確保に関する課題

日本の伝統的な大企業と比較した場合、外資には優秀な日本人を確保する上での課題がある。経済産業省の第50外資系企業動向調査(2016年調査)によれば、主な阻害要因は以下の項目とされている。


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主要な項目について、以下に、簡単なコメントを記す。

1.英語でのビジネスコミュニケーションの困難性:
これまでの経験からみて、外資系企業でビジネス英語のできる人材は、1割から2割程度だろうと思う。日本の大企業に比べて特段比率が高いとも思えない。理由は色々ある。

・顧客は日本人であり日々のビジネスで英語が必須ではない。
・本国幹部等とやり取りをする上では必要になるが、これは一定のポジション以上の人だけに限られる。
・日本人全体の英語力が低く、英語人材の母数が限られる。
・英語を一生懸命に勉強して、満を持して外資系に転職してくる人材ばかりではなく、なりゆきで外資に入って来る人も多い。採用面接をしていると、TOEICなどの英語力認定試験を一度も受けたことがない人が、「実務で使っているので問題ありません」と言うのには閉口する。語弊を承知で言えば、労働力という商品としての自分を売り込む際に、品質保証書を用意しなくとも買ってくれるだろうと思ってやってくる。
母国語以外の言語習得能力は基礎学力にもリンクする要素が大きい。
英語人材として優秀な人間が外資に殺到するわけではないというのが現実である。

2.給与等報酬水準の高さ:
年功賃金的要素が残る日本企業と、職務給ベースの色合いが強い外資の報酬水準を一概に比較するのは難しいが、個別に見れば極端に高いケースはある。つまるところは労働市場における需給関係の問題だと思う。伝統的な日本の大企業でエースとされる人達の目標は社内の出世競争を制して役員になることであり、40代以前から労働市場に目を向けることは少ない。少ない優秀人材を巡って外資系同士が奪い合いをするから報酬が吊り上がる。企業のブランド力や安定性等の点でも、中小企業主体の外資系企業が日本の大企業に伍していくのは容易ではない。埋め合わせは報酬水準ですることになる。

3.労働市場流動性不足:
新規学卒で、伝統的な日本の大企業に入社した人の多くは、定年まで勤めあげることを念頭に置いていると思われる。年功的処遇制度の残滓がある限り、この傾向が急に変わることはないだろうし、エリートとされる人間ほど社内での競争にエネルギーを注ぐ。労働市場の中で移動する人達は以下のパターンに分かれよう。

(1)新規学卒として日本の中小企業に就職し、外資・内資を問わず、数ヶ月~数年単位で職を転々とする人
(2)新規学卒として大手の外資系に就職し、外資系の中を渡り歩いていく人

(3)伝統的日本の大企業の年功制嫌気がさして、30代~40代で外資に転じる人

 

これらを合わせても日本人労働者総数の中では一部に過ぎず、同じような人達が転職を繰り返すのが日本の労働市場の現実である。


4.募集・採用コスト:
外資の採用手段は、自社ホームページでの募集、社員紹介、ハローワークなど色々あるが、幹部人材を採る際には人材紹介エージェントを使うことになる。成功報酬の場合は、採用内定者の想定年収の30%以上をエージェントに支払うことになる。1000万円の管理職を採ろうとすれば300万円がかかる。しかも、入社したら必ず定着する保障はない。OJTをしている数か月の間に辞めることもある。そうなるとまた別の人材を採用し、再び300万円のコストを負担することになる。同じ人が2~3年で転職を繰り返すことによりエージェントだけが儲かるという仕組みである。

5.厳格な労働規制:
筆者はこの見解には与しない。
“Employment at will”
原則のアメリカに比べたら、解雇を含む日本の労働規制は厳格と言えるが、欧州各国と比べたらそれほどでもない。労働者の保護という観点からは、今の日本の労働法制は妥当だと思う。経営者の恣意的な判断で解雇が自由に出来るような環境にはすべきでない。

 

6.法定外福利費水準の高さ:
健康保険や厚生年金等の社会保険料の会社負担比率は、支払給与の15%以上になるが、これを高いと見るかどうかは社会全体の仕組みをどう評価するかに関わることである。筆者は、国民皆保険、皆年金制度が確立している日本で働けることは、安心して就労を続けられる点で大変良いことだと思っている。外資系企業の外国人トップがこれを高いと思うのなら日本から撤退していただくしかない。

(上記の文章は筆者のオリジナルであり、事前の承諾なき無断転載を固く禁じます)