外資で働く(22)-イベント

外資系企業では、従業員を社内顧客として大切に扱い、彼らのエンゲージメントを高めることで会社の業績を上げて発展させようとする志向が強い。

日本企業にも同様の姿勢はあると思うが、従業員がイベントを楽しんで明日へのやる気を高める効果より、形にこだわり「儀式」に堕している面がある。大部屋に社員全員を集めて行う新年の社長挨拶などはその一例であろう。事務局が一言一句をチェックした原稿を、抑揚のない声で読み上げて、万歳三唱の後に解散・・・要するに退屈な時間なのだ。

外資系企業の海外本社幹部は頻繁に日本にやってくる。GDPで世界三位の日本市場だからである。CEOが来日する際は、従業員全員を招集してタウンホールミーティングを行うが、全員強制というわけではなく、都合のつく者が参加すればOKということになっている。
プレゼンテーションに使うパワーポイントの原稿の大部分は自分で作ったものであろう。説明を簡潔で分かりやすく行えることが幹部の最低条件であるが、もっと大事なのはその後のQ&Aである。タウンホールの参加者から自由に質問を受け付け、その場で回答する。CEOの答え方ひとつで、「この人はどれくらい優秀か?」、「ローカルの事情を理解する姿勢があるのか?」といったことが従業員に即時に分かってしまう。立場の違いを超えた真剣勝負の臨場感はなかなかのものであり、外資系にいる醍醐味を感じるときでもある。

全社員を対象に、新年度の方針を徹底するための「キックオフ・ミーティング」を開く外資系企業は多いと思う。ホテルの大ホールを貸し切って、海外からのゲストを含む幹部による方針説明を行い、終了後は、立食パーティで全員をもてなす。ミュージシャンを呼ぶなどしてエンタテイメント性を高める工夫も怠らない。顕著な業績を挙げた社員に報いる社長賞他の表彰も行い、高級時計や賞金を渡す。海外旅行を副賞にしている会社もあると聞く。従業員のやる気を高める為に、周りから認められること(Recognition)の重要性を外資系企業はよく理解していると思う。

勤めている会社の昨年のキックオフ・ミーティングでは、スウェーデン大使館内にあるノーベル・ホールという名のオーディトリアムを使わせてもらった。ミーティングの後は、大使の挨拶で始まるスウェーデン料理の立食パーティである(料理があっという間になくなるほど盛り上がったのを記憶している)。海外から招かれた幹部は、日本語ができなくても、参加者の一人ひとりに声をかけて談笑する。礼節を汚さない限り、上下関係は意識しなくて済むのが良い点である。

他にも年度中に必要に応じ、全社や部門単位のミーティングを行うことがある。業務上のイベントに合わせたリゾート地でのミーティングや、チーム対抗ボーリング、ディナークルーズなど、エンタテインメント性とサプライズに配慮する。

日々の仕事には厳しさが必要だが、「楽しくなければ会社じゃない、働き続ける意味がない」という共通了解が、外資系企業にはあるように思う(もちろん、日本の伝統的な大企業にもそのようなところはあると思うが)。従業員の気持ちをつなぎとめ、やる気を高める工夫を続けない企業からは人が去っていき、衰退することを知っているからである。

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