【提言】新型コロナウィルス感染に対し企業が取るべき措置―労災及び雇用調整助成金について

先週、首相による緊急事態宣言が出されたものの東京を始めとする大都市での感染拡大は止まらない状況です。

新たに、首相から会社への出勤も7割程度を減らすようにとの要請も出されています。これに関し、企業経営者や人事がどのような対応をすべきかにつき、一社労士の立場から緊急提言をさせていただきます。

 

1.コロナウィルス感染と労災認定について:

まず、「外部クラスターから新型コロナウィルスに感染したことを知らずに出勤していた社員から同僚社員が感染した場合に、同僚社員に労災(労働者災害補償保険)の適用は可能となるでしょうか?」 労災認定を受けるためには、①業務遂行性と②業務起因性の2つの条件を満たす必要があり、コロナウィルス感染でポイントになるのは業務起因性、即ち、業務の遂行を通じて感染したことが立証できるかです(感染経路の立証責任は本人側にあります)。労災認定は、労働基準監督署がケース毎に「感染者との距離、接触時間、プライベートの行動内容等」から総合的に判断しますが、認定は容易でないと思われます

では、「スーパーマーケットのレジ担当など、顧客接客を必要する小売り・サービス業の方が感染した場合はどうでしょうか?」 不特定多数の人に接する業務の性質上、感染経路を特定することは難しく、労災認定のハードルは極めて高いと思われます。

 
日本の労働法の下では、企業には労働者に対する「安全配慮義務」が求められています(労働契約法第5条:使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする)。業務の性質上出勤を要請せざるを得ない場合には、事前の検温、消毒、防護措置等、会社として取れる措置を徹底することが必要です。会社が従業員に対し感染防止のための十分な対策を行わずに出勤を続けさせることによって、従業員が感染した場合には、労災認定が下りなくても、従業員から会社が安全配慮義務違反で訴えられるリスクもないとは言えません。

なお、日本中が緊迫した情勢下にあっても、過去の習慣から「上司が出勤するから出勤せざるをえない」というケースはまだあると思われます。まずは、社長以下の役員から在宅勤務を始め、部下にもそれを徹底すべきです。繰り返しになりますが、この決断が従業員を守ることにつながり、併せて、企業を訴訟リスクから守ることにもつながります。

 

ところで、傷病になった場合、健康保険と労災保険では補償・給付内容に雲泥の差があります。業務上疾病が理由で死亡した場合、健康保険から支給されるのは5万円の埋葬料だけですが、労災保険では、31万5千円に給付基礎日額の30日分を加えた葬祭料に加え、最大で給付基礎日額245日分の遺族補償年金が支給されます。 会社の業務命令により危険を冒して出勤した労働者が感染して、最悪、死に至ったような場合に労災保険すら支給されない事態になった場合に想定される遺族の悲しみや怒りも考え、企業経営者や人事の皆様は、現在行っている出勤体制が本当に必要なものなのか、工夫すれば在宅他のリモートワークでもできるかどうかを至急再検討し、早急に実行していただくことが肝要と思います

 

2.雇用調整助成金の特例措置:

在宅勤務は家で仕事をさせることであり、直ちに企業側でコスト問題が生じるわけではありませんが、製造工場など在宅勤務が不可能な職場を止めれば、従業員給与等の負担が生じます。 このように、感染拡大のためにやむをえず休業する場合には、コロナ関係の緊急対策の一環で出されている雇用調整助成金の特例措置を利用する手があります休業した場合に最大で賃金相当額の9/10(中小企業)、3/4(大企業)を国が助成するものです(ただし、労働者1人1日当り8,330円を上限とします)。

従業員の雇用を守り、コロナ問題が沈静化した後のV字回復を狙おうとする企業経営者と人事の皆様は既にご存知とは思いますが、改めて、利用の可能性を検討されてはいかがでしょうか? 以上

【参考】厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

「あなた方、間違うよ」~経団連会長が語る日本経済の課題~について

NHK News WEB 2020年1月9日 17時33分に掲載された記事について、日本型雇用を再検討する時期に来ているとの中西経団連会長が語る内容に目新しさはないが、引用の後に若干の私見を補足してみたい。
    ******(ニュース記事引用)***********

    皆が同じ時期に就職し、年を重ねるに従って同じように出世をし、そして同じ会社で定年まで勤め上げる。中西会長は、こうした日本型雇用と呼ばれる仕組みを再検討する時期に来ていると指摘しました。

中西会長

「いわゆる一括採用、終身雇用、年功序列という日本の働き方の現実が非常によく産業の発展に効いた、マッチした時代が、終わったということがまず第一の共通認識の出発点ですよね」 (中略)

中西会長
    「終身雇用を前提に人生設計すると、『あなた方、間違うよ』と。自分はこの職業を今はちゃんとできるように、しかも高度にやれるように自分自身をトレーニングするという風な考えを持ってください。とにかく、いい会社に入ったらずーっと保証される、そんなことはないよ、と」
    「一度、会社に入ってしまえば定年まで安定した生活を送ることができる」そんな時代は終わり、就職したあとも自分自身で能力を高め、成長を続けていくことが求められる時代に入る。中西会長はそう強調しました。                                             ******(引用終わり)**************

  
    「就職したあとも自分自身で能力を高め、成長を続けていくことが求められる時代に入る」・・・職業人として当たり前の心がけを、財界トップが今言わなければならないことに驚きを禁じ得ないが、理由は以下のようなものと思われる。
 


    1.終身雇用、年功序列制は崩れたと言われながらも、伝統的な大企業にはまだ残っている。逆に言えば、経営的に余裕のない中小企業には元々ない。   

    2.ただし、厳しい経済競争下、大企業も業績が落ちれば容赦なく早期退職等の人員削減を断行する(2000年前後から続いている現象)。      

    3.しかし、大企業に正規採用として入社した社員の多くの意識はいまだに、「そうは言っても何とかなるだろう」ではないか(いざとなれば転職を厭わない中小企業の従業員の意識とは違う)。 
   

    筆者がかつて在籍した会社はリーマンショック後の赤字続きを理由に姉妹会社に吸収合併された。職場の後輩から届いたメールによれば、早期退職募集がまた始まったそうだが、50歳になった彼は今回は見送り、2~3年後にまた早期退職募集があれば応募しようと考えているようである。
    大企業に勤めていても、自分の労働市場での価値を意識し、スキルや能力の向上に励むことはできると思うし、筆者はそのつもりで研鑽し外資系に転職し、最終的に自営業にたどりついた。        

    後輩諸兄は、慣れ親しんだ職場にいる方が楽かもしれないが、まだ何とかなるという幻想を捨て、勇気を持って新しい環境にチャレンジしてほしいと願う次第である。

ILO Convention 190 & Japanese new labor law on violence and harassment at work

Last year ILO created the first international standard that aims to put an end to violence and harassment in the world of work(see article 4 below) . In Japan in 2019 as well, the new labor law on workplace bullying passed, which will take effect in June, 2020.

The new law made definition of the harassment protected by the law and shows preventive actions to be taken by the companies.

I truly hope ,thanks to the Japanese law maker's effort, violence and harassment at work will dramatically decrease so that healthy and effective working environment prevail throughout Japan from now on! No more ''Pawa-Hara''! 

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ILO C190 - Violence and Harassment Convention, 2019 (No. 190)

Article 4

  1.   1. Each Member which ratifies this Convention shall respect, promote and realize the right of everyone to a world of work free from violence and harassment.
  2.   2. Each Member shall adopt, in accordance with national law and circumstances and in consultation with representative employers’ and workers’ organizations, an inclusive, integrated and gender-responsive approach for the prevention and elimination of violence and harassment in the world of work. Such an approach should take into account violence and harassment involving third parties, where applicable, and includes:
    • (a) prohibiting in law violence and harassment;
    • (b) ensuring that relevant policies address violence and harassment;
    • (c) adopting a comprehensive strategy in order to implement measures to prevent and combat violence and harassment;
    • (d) establishing or strengthening enforcement and monitoring mechanisms;
    • (e) ensuring access to remedies and support for victims;
    • (f) providing for sanctions;
    • (g) developing tools, guidance, education and training, and raising awareness, in accessible formats as appropriate; and
    • (h) ensuring effective means of inspection and investigation of cases of violence and harassment, including through labour inspectorates or other competent bodies.
  3.   3. In adopting and implementing the approach referred to in paragraph 2 of this Article, each Member shall recognize the different and complementary roles and functions of governments, and employers and workers and their respective organizations, taking into account the varying nature and extent of their respective responsibilities.

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過労自殺・パワハラ自殺を防ぐためにすべきこと

過労自殺に対して企業の安全配慮義務を認める「電通事件判決」が出されてから20年近くが経ったが、有名企業の社員の過労自殺パワハラ自殺のニュースが後を絶たない

2019年11月20日労働政策審議会の分科会が、職場での「パワーハラスメント」の防止に向け企業に求める具体的な対策を盛り込んだ指針をまとめるなど行政の対策には一定の前進があるが、相次ぐ悲惨な結果を防ぐために企業や従業員の立場でとるべき最低限必要な対策は何なのだろうか?

1.後を絶たない過労自殺パワハラ自殺のニュース

ここ最近目にしたニュースを原文のまま紹介する。

(1).三菱電機、新入社員が自殺 「死ね」記したメモ残す (12/7(土) 5:50配信  朝日新聞デジタル

三菱電機の20代の男性新入社員が今年8月に自殺し、当時の教育主任だった30代の男性社員が自殺教唆の疑いで神戸地検書類送検された。労働問題に詳しい専門家によると、職場での暴言によるパワーハラスメントパワハラ)をめぐり、刑法の自殺教唆の容疑で捜査を受けるのは極めて異例という。  

兵庫県警三田(さんだ)署が11月14日付で書類送検した。認否は明らかになっていない。神戸地検は今後、刑事責任の有無を慎重に調べる。  

複数の関係者によると、自殺したのは、生産管理のシステム開発などを手がける生産技術センター(兵庫県尼崎市)に配属された技術系社員。8月下旬、兵庫県内の社員寮近くの公園で自ら命を絶った。現場には、教育主任から「死ね」などと言われたことや、会社の人間関係について記したメモが残されていたという。三菱電機で2014年以降に、新入社員が自殺したり精神障害を発症したりしたケースが判明するのは、これで3人目となる。

(2)三菱電機子会社 男性社員自殺 過労による労災と認定 (2019年11月22日 13時22分 NHK ニュース)

大手電機メーカー三菱電機の子会社の兵庫県豊岡市にある工場に勤務していた男性社員が自殺したことについて、労働基準監督署が過労による労災と認めていたことが分かりました。労災の認定を受けたのは、三菱電機の子会社、メルコパワーデバイス兵庫県豊岡市にある工場で働いていた40代の男性社員です。 代理人の弁護士によりますと、男性は平成28年11月までのおよそ1年半この工場で勤務していましたが、精神疾患を発症して休職し、別の部署に復職したあとおととし12月に自殺しました。 男性は、一定の時間働いたとみなされて賃金が支払われる裁量労働制が適用されていましたが、通常の労働時間に換算して月に100時間を超える時間外労働をしていたということです。


(3)トヨタ社員自殺 上司が「バカ アホ」パワハラ原因 労災認定
(2019年11月19日 11時36分 NHKニュース)
おととし、トヨタ自動車で働いていた当時28歳の男性社員が自殺し、労働基準監督署が、上司のパワーハラスメントが原因だったとして、ことし9月に労災と認定していたことが分かりました。労災と認定されたのは、トヨタ自動車の車両の設計を担う部署で働いていた当時28歳の男性社員です。 遺族の代理人の弁護士などによりますと、男性は4年前にトヨタ自動車に入社し、その翌年から本社の車両設計を担う部署で働いていましたが、直属の上司から繰り返し叱責されたり、「バカ」「アホ」「死んだほうがいい」などと暴言を受けるなどし、適応障害と診断されたということです。 そして3年前におよそ3か月間休職したあと職場に復帰し、この上司とは別のグループで仕事をするようになりましたが、周囲の人たちに「死にたい」と話すようになり、おととし社員寮で自殺しました。 男性の遺族がことし3月に労災を申請し、労働基準監督署が調べた結果、上司によるパワハラが自殺の原因だったとして、ことし9月に労災と認定されたということです。

                                                                         
2.過労自殺に企業の安全配慮義務を認めた「電通事件」最高裁判決
「1990年4月、大学を卒業した大嶋一郎氏は株式会社電通に入社し、6月にはラジオ局ラジオ推進部へ配属されたが、三日に一度は徹夜という常軌を逸した長時間労働の結果 うつ病に罹患し、91年8月27日、自殺死した(当時24歳)。 一審判決は、つぎのとおり述べている。

「一郎は、酒と嗜まない方であったが、スポンサーとなる会社や、営業局との間で酒の席が設けられることも多く、また、一月に一度は、班の飲み会があり、酒を無理強いされて醜態を演じたこともあった。また、酒の席で、上司(判決文では人名)から靴の中にビールを注がれて飲むように求められ、これに応じて飲んだことや、同人から靴の踵部分で叩かれたことがあった
  2000年3月24日の最高裁判決は、日本の人権史に残る画期的な判決となった

第一に、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と述べ、心身の健康破壊防止のための使用者の義務を明確にした。

第二に、大嶋一郎氏の死が長時間労働などの過重な業務によって、うつ病を発症し自殺に至ったとして、業務と死亡との相当因果関係を認め、かつ電通の使用者としての注意義務違反(安全配慮義務違反)による賠償責任を認定した。」

(以上、「過労自殺と企業の責任」川人博 著、旬報社 より抜粋) 
 

電通事件判決によって、過労自殺に対する企業の安全配慮義務、注意義務が明確に認められたのにもかかわらず、再び、同じ会社で痛ましい過労自殺が起きている。

24歳東大卒女性社員が過労死 電通勤務「12時間しか寝れない」 クリスマスに投身自殺 労基署が認定(産経ニュース2016.10.7 17:17)

最長月130時間の残業などで元電通社員の高橋まつりさん=当時(24)=が自殺し、三田労働基準監督署(東京)が過労死として認定していたことを7日、遺族側弁護士が会見で明らかにした。

弁護士によると、高橋さんは平成27年3月、東京大文学部を卒業後、同年4月に電通に入社。インターネットの広告部門を担当し、同年10月から証券会社の広告業務も入った。弁護士側が入退館記録を基に集計した残業は、10月が130時間、11月が99時間となっていた。休日や深夜の勤務も連続し、12月25日に、住んでいた寮から投身自殺した。

高橋さんが友人や母親に送信したツイッターなどでは、1日2時間睡眠が続いたことなどを訴えた上で、「これが続くなら死にたいな」「死んだほうがよっぽど幸福」と記していた。高橋さんの母、幸美(ゆきみ)さん(53)は「娘は二度と戻ってきません。命より大切な仕事はありません。過労死が繰り返されないように強く希望します」と話していた。

 

3.対策その1:まずは、異常な長時間労働をさせない体制づくり
高橋まつりさんの自殺について、「産業医が見る過労自殺企業の内側」(集英社新書)で産業医の大室正志氏は以下のように述べている。

「・・・「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな・・・・・・わたし『充血もだめなの?』」といったツィートもありました。11月には死を予感させる言葉が現れるようになり、母親にもそれをほのめかしたと言います。もちろん母親は「会社を辞めて」と返したと言います。

事件後、多くの人が、同じように思ったでしょう。

「自殺するくらいなら会社を辞めればいい」と。

しかし彼女はすでにうつ病を発症していたと考えられますし、そうではなくとも、人間の判断力は簡単に奪われるのです。

 

異常な長時間労働パワハラがセットになれば、人間の判断力は簡単に奪われてしまうその意味では、今般の労働法改正による時間外労働上限の罰則付き制限は、従業員の心身を極度に疲れさせないように(=人間扱いをするように)企業に対応させるための第一歩になる。

 

4.対策その2:パワハラへの対応―勇気を持って「降りる」ことも必要―
 
拙著「あなたの会社に「ドラマクィーン」はいませんか?-残念な管理職への対処法」で、異常な言動を取る管理職への対応法を解説したが、結局のところ、社内に留まりながらうまくやっていく方法と社外に出て自由を取り戻す方法の2択しかない。世間でどんなに一流とされている会社であっても、職場環境があまりにひどく、改善が期待できない場合には、勇気を持って「降りる」(その環境から去る)ことも必要ではないだろうか。

 再び、大室氏の著書から引用する。

電通は人が資産」歴代の電通社長が共通して話す言葉です。この資産たる「電通マン」の特徴をひと言で表すなら「脱げるエリート」だということです・・・「脱げる」とは・・・職務のためなら「恥を恐れない」ということです・・・エリートとして育った人間の「恥ブロック」を外し、「脱げる人」にしていくプロセスが必要になってきます。その時、てっとり早いのは、その人の自尊心を徹底的に打ち砕くことです。

高学歴で、今まで順調なキャリアを歩んできた人は、「降りる」とか「人前でギブアップ」という選択肢を無意識的に避けてしまう傾向があります。根気よくあきらめずに取り組んできたという成功体験が「撤退」という選択肢を躊躇させたことは十分に考えられます。」

           産業医が見る過労自殺企業の内側 大室正志 集英社文庫

 

大室氏の記述を読みながら、筆者が20代前半に経験した最初の職業体験を思い出した。パワハラ長時間労働があったわけでは全くないが、仕事と職場環境に馴染めなかったため3ヶ月で退職した。若い女性行員に対するセクハラ社員が放置されていることもあり会社で頑張ろうというモチベーションが湧いてこなかった。ほどなくして、会社に行くと喘息になった。体は正直である。世間的には一流ブランド企業であったが、退職した。喘息は、ほどなくしておさまった。

  退職後、特急列車のレールから外れて人生の落伍者になったような気分が数年続いた。別の道があるはずだし、会社を辞めたくらいで人生の希望が閉ざされるはずはないのだが、大企業による「終身雇用制」の存続が信じられていた1980年代は・・・降りることへの恐怖感が(少なくとも筆者には)あった。だが、体を壊してまで留まる前に降りたことが良かったのは言うまでもなく、降りたことで、1社に留まっていたら味わえない色々な経験をすることができたと思っている。

                   
5.未来への希望

会社は仕事をして報酬をもらうところであるが、人間関係を含め健全な労働環境が確保されることが仕事を続けるための前提条件となる。

 仕事もできないのに、正当な業務指導に対しても上司に「パワハラだ!」と盾突くのは論外であるが、仕事に励む一方で、人としてきちんと扱ってくれる職場環境を要求するのは当然のことである。どうがんばってもこれが実現しない場合には、「降りる」ことも選択肢の一つである。

「利潤追求」が企業の目的である限り、表面的には綺麗ごとを言い続ける現場を知らない企業幹部が第一線の従業員に過酷な労働を強いる構図は簡単には変わらないだろう。だが、自らの憂さ晴らしやストレス解消などの動機から、弱い者や疲れている従業員に対するいじめ・ハラスメントや暴行など刑法の犯罪行為に走る管理職・従業員は許されざるものである。そのような人達には自分がそのような仕打ちを受けたらどう感じるかを考えてほしい。

 

自分にしてもらいたいと望むとおり、人にもそのようにしなさい。 ルカ 6:31

Treat others as you would like to have them treat you.

 

ターゲットにされた人達は、ただ泣き寝入りするのではなく、まずは心身の健康を確保するための手段を検討し、「降りる」ことや「闘う」ことを含めて行動することが肝要である。

 

自らの命を犠牲にする前にできることをすべきであり、方法はある。

                                  以上

中途採用率の公表義務化―新卒一括採用からの官製転換施策!?

12月8日(日)の読売新聞1面トップ記事に「中途採用率の公表義務化」の記事が載っていた。それによると、「従業員301人以上の大企業に対し、中途採用と経験者採用が占める比率の公表を義務づける方針を固めた。新卒一括採用の転換を促し、働き方の多様化を進める狙いがある。」ということである。

驚いたのは、5000人以上の大企業の中途採用比率が37.4(2017年度)というリクルートワークス社調べのデータである(筆者は、契約社員派遣社員を除く正規社員のみの数値と理解している)。

30数年前、新卒として都市銀行に入社し3ヶ月で退職したが、当時は、一流企業をすぐに辞める人間にはこらえ性のない落伍者というイメージしかなかったと思う。翌年に第二新卒扱いで入社したメーカーも100%新卒一括採用だった。40数名いた大学のクラスメートのその後のキャリアを見ても、企業合併等を別として自らの意思で転職した者は1割に満たない。

大企業に入社すれば絶対に潰れず安心で、「終身雇用」が保障されるという幻想を多くの人が信じていた時代である山一證券の廃業や日本長期信用銀行の経営破綻等が発生した1997年を境に大企業は大規模な早期退職を始め、「終身雇用」慣行は終わった(と筆者は考えている)が、それにしても、今や大企業の従業員の3人に1人以上を中途採用者が占めるまでに変わったのかという感慨を禁じ得ない

新卒で入社した会社でローテーションや人事異動を経て、しっかり教育してもらい、定年まで勤めあげられればそれはそれで良いキャリアだとは思うが、色々な会社を経験するのも悪くない。一度しかない人生、想定しない企業文化や人との遭遇は面白くもあり、成長の契機にもなる。

最後に残る疑問は、政府は40%近い中途採用比率でもまだ低いと思っているのかということである。どの程度まで誘導しようと考えているのかも気になる。企業経営からすれば、どのような採用するかにまで政府が口を挟むのは大きなお世話であり、官製「働き方改革」はここまで踏み込むのかという感がある。

300人未満の中小企業の中途採用比率が8割近いのは理解できる。大企業に劣る労働条件や職場環境が不満で辞める従業員がいれば、頻繁な経営の浮き沈みのゆえに会社から退職を促される従業員も多い。他方、社内に多くの事業と部門があり、多様な経験を積むことができる大企業の環境にはまだまだ捨てがたいものがある。

近年重視されている「会社の”DNA”を保持すること」が組織の安定と持続的成長に繋がるのだとするならば、中途採用比率の到達目標は50%ギリギリ未満(=2人に1人以上は”DNA”を体現する生え抜きの組織にする)になるのではなかろうか?

新著「あなたの会社にドラマクィーンはいませんか?」を12月19日に上梓します

www.rodo.co.jp

12月19日に、労働新聞社より「あなたの会社にドラマクィーンはいませんか?」を上梓します。

本書は、ドラマクイーン、ナルシスト、ブレイマーなど、異常な言動をとる「残念な管理職」(その行動の多くは、パワハラに該当する可能性があります)の特徴を概観し、部下としての対処法を解説するものです。共著者の一人である鈴木が「残念な管理職」の実態分析と対応策を整理し、産業医として数多くの会社の現場を見てきた精神科医の長谷川博士が、異常な言動をとる管理職について、精神医学的な視点から分析を行っています。

残念な上司に日々悩まされている部下の方々、自分は大丈夫だと思っているパワハラ予備軍の管理職の方々の手に取っていただき、日本の会社の職場環境が改善していくための一助になることを願っています。

 

定年後の心象風景(その2)

前回のブログの続きである。

 

定年後の世界に怯えるのは、「男は仕事、女は家庭」という古風な考え方をする日本男児に多いのかもしれないが、そもそも、家族や身近な共同体を離れて、縁もゆかりもない人達と「会社」という組織で(無理やり)働かされる形態は、産業革命以後200年の歴史しかない。それまで大多数の人間は、家族を基本組織とし、助け合いながら、農業や家内工業などに従事していたものと思われる。

労働を提供することで賃金を得る契約により、「会社」という組織に何十年もの時間と自由を奪われた後、ようやく「家族」のもとに帰還できたと思ったら、家庭に「お父さん」の居場所はなくなっており、「粗大ごみ」同様に扱われる。残業して帰宅すると、テレビの前に寝ころびながら缶ビールを飲み、奥さんがせっせと働いているのを横目に、皿洗いなど最低限の家事すらしない、というようなことはないだろうか。「家族」という共同体の中で目に見える形で応分の役割を果たしてこなければ、「粗大ごみ」扱いされるのは当然のツケであろう・・・「会社」でいくら苦労しているとしても、家族には見えない世界の出来事だからである。


だから、定年になる前に、せめて家事くらいは覚えておき、「仕事」以外の形で家族の共同生活に参画できるようにしておかなければならない。あるいは、自分なりの趣味を持ち、残された時間をエンジョイできるようにもしておいたほうが良いだろう。「定年後」を冠したノウハウ本の骨子はつまるところ、このようなものではないかと推測している。

筆者は随分前から、週末に家族と時間を過ごしていると、こちらの方が自分の本拠地ではないかと感じていた。持ち家をした直後に転勤になってから15年間単身赴任を続けたが、週明けの月曜日、音を立てずに一人だけの朝食を済ませ、家内と子供達の寝顔に別れを告げ、「これからまた、会社という異世界に出稼ぎに行ってくる」という気持ちで日々を送るうちに50代半ばとなり、その後の転職先で「定年」を迎えてしまった。

だが、帰還するにはまだ早い・・・次の「仕事」を探さねばならない。
筆者の場合は、自営業(開業社会保険労務士)の形で再スタートを切ることになった。 自宅兼用の事務所で、いつも家族の近くにいることになり安心感はある。だが、時間も仕事も自分のペースで決められる自由を満喫できる反面、安定的収入はない。自己責任で事業を運営しなければならない。 同じ場所にいても、サラリーマンをしていた頃の心象風景とは全く異なる厳しい世界であるが、自分で選んだがゆえに不満はないし、何とかなると信じてもいる。 心身の健康が続く限り、無理しない程度に頑張っていきたいと願うこの頃である。

わたしはあなたがたのために立てている計画をよく知っているからだ。-主の御告げー それはわざわいではなくて、平安を与える計画であり、あなたがたに将来と希望を与えるためのものだ。 エレミヤ書29:11