中途採用率の公表義務化―新卒一括採用からの官製転換施策!?

12月8日(日)の読売新聞1面トップ記事に「中途採用率の公表義務化」の記事が載っていた。それによると、「従業員301人以上の大企業に対し、中途採用と経験者採用が占める比率の公表を義務づける方針を固めた。新卒一括採用の転換を促し、働き方の多様化を進める狙いがある。」ということである。

驚いたのは、5000人以上の大企業の中途採用比率が37.4(2017年度)というリクルートワークス社調べのデータである(筆者は、契約社員派遣社員を除く正規社員のみの数値と理解している)。

30数年前、新卒として都市銀行に入社し3ヶ月で退職したが、当時は、一流企業をすぐに辞める人間にはこらえ性のない落伍者というイメージしかなかったと思う。翌年に第二新卒扱いで入社したメーカーも100%新卒一括採用だった。40数名いた大学のクラスメートのその後のキャリアを見ても、企業合併等を別として自らの意思で転職した者は1割に満たない。

大企業に入社すれば絶対に潰れず安心で、「終身雇用」が保障されるという幻想を多くの人が信じていた時代である山一證券の廃業や日本長期信用銀行の経営破綻等が発生した1997年を境に大企業は大規模な早期退職を始め、「終身雇用」慣行は終わった(と筆者は考えている)が、それにしても、今や大企業の従業員の3人に1人以上を中途採用者が占めるまでに変わったのかという感慨を禁じ得ない

新卒で入社した会社でローテーションや人事異動を経て、しっかり教育してもらい、定年まで勤めあげられればそれはそれで良いキャリアだとは思うが、色々な会社を経験するのも悪くない。一度しかない人生、想定しない企業文化や人との遭遇は面白くもあり、成長の契機にもなる。

最後に残る疑問は、政府は40%近い中途採用比率でもまだ低いと思っているのかということである。どの程度まで誘導しようと考えているのかも気になる。企業経営からすれば、どのような採用するかにまで政府が口を挟むのは大きなお世話であり、官製「働き方改革」はここまで踏み込むのかという感がある。

300人未満の中小企業の中途採用比率が8割近いのは理解できる。大企業に劣る労働条件や職場環境が不満で辞める従業員がいれば、頻繁な経営の浮き沈みのゆえに会社から退職を促される従業員も多い。他方、社内に多くの事業と部門があり、多様な経験を積むことができる大企業の環境にはまだまだ捨てがたいものがある。

近年重視されている「会社の”DNA”を保持すること」が組織の安定と持続的成長に繋がるのだとするならば、中途採用比率の到達目標は50%ギリギリ未満(=2人に1人以上は”DNA”を体現する生え抜きの組織にする)になるのではなかろうか?