【提言】新型コロナウィルス感染に対し企業が取るべき措置―労災及び雇用調整助成金について

先週、首相による緊急事態宣言が出されたものの東京を始めとする大都市での感染拡大は止まらない状況です。

新たに、首相から会社への出勤も7割程度を減らすようにとの要請も出されています。これに関し、企業経営者や人事がどのような対応をすべきかにつき、一社労士の立場から緊急提言をさせていただきます。

 

1.コロナウィルス感染と労災認定について:

まず、「外部クラスターから新型コロナウィルスに感染したことを知らずに出勤していた社員から同僚社員が感染した場合に、同僚社員に労災(労働者災害補償保険)の適用は可能となるでしょうか?」 労災認定を受けるためには、①業務遂行性と②業務起因性の2つの条件を満たす必要があり、コロナウィルス感染でポイントになるのは業務起因性、即ち、業務の遂行を通じて感染したことが立証できるかです(感染経路の立証責任は本人側にあります)。労災認定は、労働基準監督署がケース毎に「感染者との距離、接触時間、プライベートの行動内容等」から総合的に判断しますが、認定は容易でないと思われます

では、「スーパーマーケットのレジ担当など、顧客接客を必要する小売り・サービス業の方が感染した場合はどうでしょうか?」 不特定多数の人に接する業務の性質上、感染経路を特定することは難しく、労災認定のハードルは極めて高いと思われます。

 
日本の労働法の下では、企業には労働者に対する「安全配慮義務」が求められています(労働契約法第5条:使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする)。業務の性質上出勤を要請せざるを得ない場合には、事前の検温、消毒、防護措置等、会社として取れる措置を徹底することが必要です。会社が従業員に対し感染防止のための十分な対策を行わずに出勤を続けさせることによって、従業員が感染した場合には、労災認定が下りなくても、従業員から会社が安全配慮義務違反で訴えられるリスクもないとは言えません。

なお、日本中が緊迫した情勢下にあっても、過去の習慣から「上司が出勤するから出勤せざるをえない」というケースはまだあると思われます。まずは、社長以下の役員から在宅勤務を始め、部下にもそれを徹底すべきです。繰り返しになりますが、この決断が従業員を守ることにつながり、併せて、企業を訴訟リスクから守ることにもつながります。

 

ところで、傷病になった場合、健康保険と労災保険では補償・給付内容に雲泥の差があります。業務上疾病が理由で死亡した場合、健康保険から支給されるのは5万円の埋葬料だけですが、労災保険では、31万5千円に給付基礎日額の30日分を加えた葬祭料に加え、最大で給付基礎日額245日分の遺族補償年金が支給されます。 会社の業務命令により危険を冒して出勤した労働者が感染して、最悪、死に至ったような場合に労災保険すら支給されない事態になった場合に想定される遺族の悲しみや怒りも考え、企業経営者や人事の皆様は、現在行っている出勤体制が本当に必要なものなのか、工夫すれば在宅他のリモートワークでもできるかどうかを至急再検討し、早急に実行していただくことが肝要と思います

 

2.雇用調整助成金の特例措置:

在宅勤務は家で仕事をさせることであり、直ちに企業側でコスト問題が生じるわけではありませんが、製造工場など在宅勤務が不可能な職場を止めれば、従業員給与等の負担が生じます。 このように、感染拡大のためにやむをえず休業する場合には、コロナ関係の緊急対策の一環で出されている雇用調整助成金の特例措置を利用する手があります休業した場合に最大で賃金相当額の9/10(中小企業)、3/4(大企業)を国が助成するものです(ただし、労働者1人1日当り8,330円を上限とします)。

従業員の雇用を守り、コロナ問題が沈静化した後のV字回復を狙おうとする企業経営者と人事の皆様は既にご存知とは思いますが、改めて、利用の可能性を検討されてはいかがでしょうか? 以上

【参考】厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html