副業・兼業とキャリア形成について

副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である・・・首相官邸働き方改革実行計画」で2017年3月に示された考え方である。以降、企業や働き手の副業・兼業への関心が高まっているようである。
筆者も人事コンサルタントとして顧問先企業から副業・兼業に関する制度作りの相談を受けることがあるが、企業側、従業員側双方にとってWin-Winになるすっきりとした助言をしにくいと感じており、現時点での問題意識を紹介したい。
 
まず一点目は、副業・兼業の現状認識。
①副業をしている者の本業の所得を見ると、 299 万円以下の階層が全体の約3分の2を占め、食べるために仕事の掛け持ちをせざるを得ないワーキングプア層が多いことが分かる(第155 回 労働政策審議会労働条件分科会(令和元年 10 月 18 日)資料) 

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000558802.pdf

②雇用者総数に対する副業をしている者の割合を本業の所得階層別にみると、 本業の所得が 199 万円以下の階層と 1000 万円以上の階層で副業をしている者の割合が比較的高い。ワーキングプア階層だけでなく、高所得者階層に副業をしている者が多いことは興味深い。
 
「多様な働き方」「働き方改革」「新たなキャリア開発やモチベーション向上の促進」など、素敵なキーワードに基づく施策を推進する大企業が増えつつあるようだが、現状では生存のために働かざるをえない者がマジョリティである。十分な経験やスキルを保有する高所得者層を除けば、標準的な収得を得るサラリーマンの副業・兼業志向は高くない。
 
二点目は、雇用の形で他社で副業を行うケースの場合は、本業会社と副業会社の労働時間を通算して労働基準法の時間外労働上限規制が適用になるなど、様々な制約が多く、企業側としては使いづらいことである(詳細は別の機会に説明したい)。
 
三点目は、そもそも論として、「なぜ副業・兼業をするのか?」という動機や目的が重要であるということである。本業の収入が低すぎるために働かざるをえない場合を別にすれば、副業・兼業の目的・動機にはそれなりに強いものがなければおかしいと個人的経験から思う(わざわざ複数の事業主に仕える煩わしさを埋め合わせるだけのメリットが必要ではないか)。例えば、起業や独立に向けて経験を積みたいという動機など、自分の「キャリア」を創っていく上での問題意識は出発点になるかもしれない。
 
四点目は、働く側としては、本業でキチンとパフォーマンスを発揮できてこその副業・兼業であることを自覚することである。企業側からすれば、自社の社員が副業・兼業に身を入れ過ぎて本業が疎かになるリスクは避けたいはずである。雇用保障の身分を享受し、本業をテキトーにこなしつつ、副業で転身のチャンスをうかがうような人材を歓迎する企業が今後の日本でどれくらい増えてくるのかは分からないが、リスクゼロのキャリア形成などありえない。本当に自分が望むキャリアを創りたいのであれば、雇用保障を前提とした「副業・兼業」だけでなく、「転職」や「起業」という選択肢も併せて考慮しながら、地道に研鑽に励むのが一見遠回りのように見えても近道になるように感じている。
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