外資で働く(19)-転職のタイミング

日本企業で職業生活を始めた人が、どのタイミングで外資系に転じるとうまく行くのだろうか。

多くの候補者へのインタビューを通じて達した暫定結論は、最低でも10年から15年は日本企業でビジネスパーソンの基礎と専門性をきちんと磨いてから外資系に転じるのが良いということだ。

日本企業にはまだ年功制が残っており、若いうちは使い走りや徒弟のように扱われることもあるだろう。が、OJTを通じて優秀な上司・先輩がしっかり教育してくれることや、ローテーション等を通じて専門性と幅広さを同時に身につけられることが大きな利点として挙げられる。これらの利点を十分に享受してひとかどの専門家になってから外資系に転ずるのが賢明である。専門性も身につかないうちに、窮屈だからという理由で20代で外資系に転じると失敗するリスクがある。一般に外資は、出来上がった人材、すなわち、専門家を求めているからである。育成にかかる時間を節約するために専門家を(多少高めでも)買うという発想が強い。

もっとも、10年から15年もの間日本企業で基礎を磨いてから外資に転じても、そのまま定着できるとは限らない。長くても2~3年、短いと数か月で転職を繰り返す場合が多いようだ。理由は色々あるだろうが、受け入れ側の外資系に長期安定雇用を是とする風土・文化がない、転職者側の忍耐力不足(気にいらなければすぐ辞める)、一度転職して自信がつくと更なる転職に抵抗感がなくなる、等々。
しかし、短期間で転職を繰り返し経験社数が7~8社にもなった履歴書を見ると、「本当に採って大丈夫だろうか?」「少しでも不満を感じたらすぐに辞めてしまうのではないだろうか?」ということを、採用者側は考えがちである。

もうひとつのタイミングとしては、20年から30年ほど日本企業で勤務し、専門性を身に着け、マネジメントも十分に経験した上で外資に転ずるというのもある。昨今の日本の大企業は業績悪化を理由に頻繁に大量の早期退職を募集しているので、潜在的な母集団は意外に大きい。彼らは50歳前後で年齢的にも後がないので、気構えや忍耐力の点で期待できるし、実力は保証付きである。問題は、外資のスピーディーで自立・自己責任のカルチャーに馴染めるか、英語を含む異文化コミュニケーション力とマインドセットがあるかということである。

最後に、日本企業を数年で辞めて外資系に転ずるケースであるが、専門性も忍耐力もなく英語だけできる若手の人材価値を高く評価する会社は多くはないと思う。短期間に外資を転々としながら、年を重ね、気がついたら専門性も中途半端なままだということにならないよう気をつけたいものだ。

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