メンバーシップ型雇用システムのPros&Cons

働く環境が異なれば、マインドセット(Mindset、心構え)も変わる。外部労働市場を意識するかどうかが、日本の伝統的大企業の「メンバーシップ型雇用」と、欧米企業の「ジョブ型雇用」のマインドセットの分かれ目となる。メンバーシップ型の下では、社内の「同期」など内向き意識ばかりが強くなり、労働市場で自らの価値を考える向きは少ない。このようなマインドセットでも会社が順調に推移しているうちは問題ないが、危機が来たときに生き抜くことは難しい。

しかし、メンバーシップ型がダメだとも思わない。
以下の拙稿に書いた通り、「外部市場と自分のキャリア形成を常に意識して研鑽しつつも、チームワークと組織の成果を重視する」、メンバーシップ型とジョブ型の中間くらいのマインドセットを目指すのが良いのではないかと感じている。

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経団連タイムズ寄稿「日本型雇用システムの将来展望(第2回)」
https://lnkd.in/g93jk3dr

経団連春季交渉方針、ジョブ型雇用「検討必要」について

春闘の季節が始まり、日経新聞(電子版)2022年1月18日に、以下の記事が載っていた。

「今回の報告では、年功型賃金について「転職等の労働移動を抑制」「若年社員の早期離職の要因の1つ」と指摘したのも特徴だ。新卒一括採用、終身雇用など日本型雇用システムの見直しを一層加速させる必要があるとした。見直しの方向性として、主体的なキャリア形成を望む働き手にとってジョブ型雇用が「魅力的な制度となり得る」と評価した。各企業が自社の事業戦略や企業風土に照らし、ジョブ型の導入・活用を「検討する必要がある」と結論付けた。」

これからの日本企業は「ジョブ型」雇用をどんどん推進すべきだという雰囲気があるようだが、「メンバーシップ型」と二律背反ではないと筆者は認識しており、また、日本企業の中でも(特に中小企業では)「ジョブ型」を古くから実施してきたところは多いと思われる。

事務系職種が大半の金融機関等は、新卒を採用してから配属を考える運用を今でも続けているかもしれないが、技術系・事務系の様々な職種を抱えるメーカーでは、「採用してから仕事を割り振る(メンバーシップ型)」運用は不可能であり、必要な職種・職務に関する採用計画に基づき採用・配属するフローである。もっとも、欧米企業では必須のJD(職務記述書)に基づき採用・配置・評価・育成するシステムを整えているところは少なく、グローバル規模でベストタレントを確保する上での課題になっている。

メンバーシップ型には、職業経験ゼロの人材を一人前のビジネスパーソンに育成するシステムの側面もあり、これは日本企業の強みとして大切にすべきと筆者は考える。

「ジョブ型」、「メンバーシップ型」は、ビジネス社会の中で作られてきたルールに過ぎず、各々の長短を冷静に分析した上で、環境の変化に合わせてハイブリッド案を含め検討し変えていけば良い。

もっとも、長らくメンバーシップ型社会の中で形成されてきた働く側のマインドセットを変えることは意外に難しく、この部分が日本人の労働生産性や主体的なキャリア形成の促進の鍵になると思っている。

2020年に経団連タイムズに「日本型雇用システムの将来展望(全8回)」を寄稿させてもらったが、筆者の基本的考え方は当時と変わっておらず、参考までに改めて紹介したい。

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https://lnkd.in/gAN5s7qY

(イラスト作成:葉ヶ竹霧)

#日本的雇用システム #ジョブ型雇用 #メンバーシップ型 #職務記述書

 

 

副業・兼業とキャリア形成について

副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である・・・首相官邸働き方改革実行計画」で2017年3月に示された考え方である。以降、企業や働き手の副業・兼業への関心が高まっているようである。
筆者も人事コンサルタントとして顧問先企業から副業・兼業に関する制度作りの相談を受けることがあるが、企業側、従業員側双方にとってWin-Winになるすっきりとした助言をしにくいと感じており、現時点での問題意識を紹介したい。
 
まず一点目は、副業・兼業の現状認識。
①副業をしている者の本業の所得を見ると、 299 万円以下の階層が全体の約3分の2を占め、食べるために仕事の掛け持ちをせざるを得ないワーキングプア層が多いことが分かる(第155 回 労働政策審議会労働条件分科会(令和元年 10 月 18 日)資料) 

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000558802.pdf

②雇用者総数に対する副業をしている者の割合を本業の所得階層別にみると、 本業の所得が 199 万円以下の階層と 1000 万円以上の階層で副業をしている者の割合が比較的高い。ワーキングプア階層だけでなく、高所得者階層に副業をしている者が多いことは興味深い。
 
「多様な働き方」「働き方改革」「新たなキャリア開発やモチベーション向上の促進」など、素敵なキーワードに基づく施策を推進する大企業が増えつつあるようだが、現状では生存のために働かざるをえない者がマジョリティである。十分な経験やスキルを保有する高所得者層を除けば、標準的な収得を得るサラリーマンの副業・兼業志向は高くない。
 
二点目は、雇用の形で他社で副業を行うケースの場合は、本業会社と副業会社の労働時間を通算して労働基準法の時間外労働上限規制が適用になるなど、様々な制約が多く、企業側としては使いづらいことである(詳細は別の機会に説明したい)。
 
三点目は、そもそも論として、「なぜ副業・兼業をするのか?」という動機や目的が重要であるということである。本業の収入が低すぎるために働かざるをえない場合を別にすれば、副業・兼業の目的・動機にはそれなりに強いものがなければおかしいと個人的経験から思う(わざわざ複数の事業主に仕える煩わしさを埋め合わせるだけのメリットが必要ではないか)。例えば、起業や独立に向けて経験を積みたいという動機など、自分の「キャリア」を創っていく上での問題意識は出発点になるかもしれない。
 
四点目は、働く側としては、本業でキチンとパフォーマンスを発揮できてこその副業・兼業であることを自覚することである。企業側からすれば、自社の社員が副業・兼業に身を入れ過ぎて本業が疎かになるリスクは避けたいはずである。雇用保障の身分を享受し、本業をテキトーにこなしつつ、副業で転身のチャンスをうかがうような人材を歓迎する企業が今後の日本でどれくらい増えてくるのかは分からないが、リスクゼロのキャリア形成などありえない。本当に自分が望むキャリアを創りたいのであれば、雇用保障を前提とした「副業・兼業」だけでなく、「転職」や「起業」という選択肢も併せて考慮しながら、地道に研鑽に励むのが一見遠回りのように見えても近道になるように感じている。
#副業兼業 #キャリア形成 #人事 #働き方改革 #多様な働き方

外国人労働者の人事・労務に役立つ支援ツール(厚労省)

厚生労働省が、外国人を雇用する事業主・人事労務担当者向けに、企業の人事・労務に関する多言語による説明や、困りごとの背景にある文化ギャップを埋めることに役立つ下記3つの支援ツールを新たに作成しました。

 

外国人労働者の人事・労務に役立つ3つの支援ツール】

1.外国人社員と働く職場の労務管理に使えるポイント・例文集  ~日本人社員、外国人社員ともに働きやすい職場をつくるために~

2.雇用管理に役立つ多言語用語集

3.モデル就業規則やさしい日本語版  

https://lnkd.in/g_cg4HQ

 

役に立つ内容と思われますので、ご活用いただければと思います。

 

因みに、拙著の「グローバル展開企業の人材マネジメントーこれだけはそろえておきたい英文テンプレート」(2017年、経団連出版)でも、人事労務に関する英文用語集を掲載しておりますので、ご参考までに。

https://lnkd.in/fAVmN2k

 

#外国人雇用 #雇用管理 #労務管理 #就業規則 #多言語用語集

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個人事業主の労働効率

会社勤めの人事屋から、個人事業主としての人事コンサル業に転じて2年目となった。

自分の自由になる時間が多いと罪悪感につながるマインドセットから脱却し、真に必要な労働を自らの責任において行うことにようやく慣れてきたこの頃ではある。

コロナ禍のせいで、鳴り物入りで改正された「働き方改革」関連法の影が若干薄くなっている印象もあるが、フリーランスになってみて「労働時間」に関する意識が180度変わったことに気づかされている。

今は、顧客のための資料作成やコンサルに費やす時間をきっちりと0.5時間単位で記録しながら作業をしている。仕事を始めたらひたすら作業に没頭し顧客に満足してもらえる成果物を出せるかどうかに注力する。ただ、1日の中でこのように集中できる時間はせいぜい4~5時間程度であることにも気づかされた。

サラリーマン時代に、上司・部下その他の関係者との打合せ(たまに世間話)などに費やした時間は、今やっている一人作業の労働密度より薄かったし、分からないことを気軽に聞ける人材が揃っていた点でも恵まれていたと思う。9時から5時まで職場にいれば働いたことにはなるので、自営業主に比べれば気楽なものだった。

一般に「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされているが、結局のところ、ホワイトカラーの給与も成果リンクというより、拘束時間に対する代償の側面が強かったのだと改めて思わされる。

 

とすれば、「働き方改革」の向かう方向は、成果重視の効率的な働き方ということになるのだろうか? だが、他人の指揮命令下でどこまで「効率的」に、言い換えれば自分にとって最も働きやすい環境を作れるかどうかは矛盾する課題のように思われる。自分の都合だけでなく組織全体の効率を考えなければならないからである。

その点、個人事業主フリーランスの場合は、顧客に要求されたアウトプットを出すための工夫は労働時間を含め100%自己責任で行うので、やりようによっては大幅な「働き方改革」が実現できる可能性はある(ただし、適正な価格で受注することが前提となる)。

 

今般の改正法で事業主に課された65歳以降の就労機会確保義務の選択肢の中に、業務委託が入っていることは、今後の働き方改革のひとつの可能性を示しているように筆者には思われる。

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業務委託という働き方

2021年4月より施行予定の改正高年齢者雇用安定法により、事業主には従業員に対し70歳までの就業機会の確保をする努力義務が課されることとなった。ここで目を惹くのは、「雇用」の他に「業務委託」という選択肢が用意されていることである。

会社から見て「業務委託」のメリットは、人件費を変動費化できることである。日本の労働法制・慣行では、一方的に「雇用」契約を解消することは難しいが、業務委託なら、必要なときに必要な仕事を頼むだけで済む。労働時間管理や社会保険適用が不要になることで管理コストを下げることもできる。

 従業員にとっては、「雇用」と「業務委託」それぞれにメリットとデメリットがある。

「雇用」のメリットは、何といっても安定的に給与がもらえることであろう。多少仕事の出来が悪くても極端に給与を下げられることは少ないからだ。コロナ禍であっても決められた時間に決められた場所に行かなければならず、会社や上司の指揮命令に従わなければならないという拘束感をデメリットと感じる人は多いだろう。

 「業務委託」のメリットは、働く場所や時間を自由に決められる点であろう。報酬や労働負荷に関する法的保護がほとんどなく、仕事の出来栄えや出来高に不満を持たれれば契約解消されるリスクが高いことはデメリットと言えよう。だが、良い仕事をして評判を上げれば稼げるチャンスが増えると考えれば、メリットにもなる。

大組織に守られ、毎月決まった給与をもらえる安心感の魅力を否定はしないし、どういう働き方を選択するかは個人の自由である。だが、経験やスキルを評価してくれないと感じる場所で悶々と日々を過ごすくらいなら、フリーランス(や起業)の世界に挑戦してみるのもひとつの手である。

 

人生百年時代、折り返し地点を少し過ぎたところで誇りや意欲を失って日々を流すのはもったいない。

 

定年後にどう働くのか?-改正高齢法で感じたこと

改正高年齢者雇用安定法が2021年4月より施行され、事業主には、70歳までの雇用確保(①定年引上げ、②定年制廃止、③継続雇用制度のいずれか)か、④業務委託契約制度、⑤社会貢献活動に従事する制度の導入のいずれかの措置をとることが努力義務となる。

このこと自体は、働くことを通じて自己実現や社会貢献をしたいと願うサラリーマンにとって悪い話ではないのだが、筆者の見聞する中高齢者の雇用実態に鑑みると手放しで喜べない部分もある。

 

多くの企業は60歳定年を機に賃金を大幅に下げ、それに見合うように役職を解き、業務範囲を狭めるなどして、シニア社員の労働意欲を下げている。現行法による65歳までの雇用義務化は、年金支給年齢引き上げによる無収入期間を防ぐための策でもあることから、経営側として、「福祉的雇用を行っているのだから、現役社員の邪魔をせず、言われたことをおとなしくやってくれればよい」という本音の声もあろう。

 

筆者の知人・友人にも、給与と権限を大幅に下げられ、やる気をなくしたまま65歳まで働いて年金生活に入った者がいる。働き続ける意思はあるが転職活動がうまくいかなかったようである。他方、現役時代には年収1000万円を優に超えたはずの一流大学卒の管理職経験者で、300万円に下げられても、「〇〇の会社が好きなんだよね」と喜々として、新しい職務に励んでいる例もある。気持ちの切替え方次第かもしれないが、一般に、賃金が下がってもモチベーションを維持するのは容易ではない。

人事屋の視点で言えば、60歳を機に賃金を下げる理由は、年功的処遇制度により高くなりすぎた賃金を市場賃金並みに調整する作業に他ならない。同様のスキルを有する人材をハローワークで調達しようとすればそれほど高い賃金は必要ない。定年制は、「メンバーシップ型」処遇から「ジョブ型」処遇へと切り替えるリセットの仕組みなのである。

 

しかしである。世界の中でも異常な速度で少子高齢化が進む日本で、モチベーションの下がった中高齢者層に対して福利厚生的雇用を70歳まで続けていては、会社・従業員双方にとって非効率で不幸なサイクルの繰り返しにしかならず、活力ある日本社会はつくれないのではないだろうか。

 

このような視点から、改正高齢法を眺めてみると、雇用の選択肢の他に「業務委託」を用意したところに若干の

工夫は感じられる。筆者は、意欲を持って長く働き続けるためには、「雇用される」ことにこだわらない生き方があってよいと感じており、30数年続けたサラリーマン生活を止めて個人事業主(士業)に転身した。もっとも、大学や会社の同期の現況を見ると、自営業・個人事業主は5%から10%の間であった。大組織に守られ、毎月決まった給与をもらえる安心感の魅力を否定はしない。それは個人の自由である。だが、経験やスキルを評価してくれないと感じる場所で悶々と日々を過ごすくらいなら、フリーランス(や起業)の世界に挑戦してみるのもひとつの手である。人生百年時代、折り返し地点を少し過ぎたところで誇りや意欲を失って日々を流すのはあまりにもったいない。

 

50代半ばで早期退職をした研究者出身の友人は、不動産会社を立ち上げいきいきと営業に勤しんでいる。

仕事の合間には、趣味のサックスの練習や演奏会に時間を割き、実に楽しそうである。

 

筆者も音楽が好きであり、もう少し余裕が出てきたら、楽器演奏や作曲をしながら、合間に仕事をする生活サイクルに移行したいと願うこの頃である。

どんな生き方をするかを決めるのは自分であり、人生に定年制はない。

#改正高齢法, #定年後再雇用, #働き方, #定年, #人生100