外資で働く(11)-雇用の安定

伝統的な日本の大企業と外資系企業の大きな違いのひとつに、「雇用の安定」がある。

日本企業の場合、労働者はそれほど頻繁に転職するわけではないし、パフォーマンスが悪い社員がいても、解雇に至るケースは多くない。その前に、昇給・賞与の評価を下げたり、転勤や子会社への出向といった人事異動の手段を採ることが普通である。

日本の労働法制が解雇を制限していることも、「雇用の安定」を確保する上では大きい。
就業規則に解雇事由を明記しておけば、会社には解雇する権利があるわけだが、「労働契約法第16条」の解雇権濫用法理により、事実上、解雇は制限されている。すなわち、「客観的に合理的な理由を欠き」、「社会通念上相当と認められない」解雇は権利の濫用として無効とされる。


合理的な理由には、労働能力・技術・知識等の著しい欠如や、職務怠慢、業務阻害、重大な規律・秩序違反などが挙げられる。社会通念上相当と認められない例としては、使用者の適正な指示・命令の欠如や、行為と解雇処分のバランスの欠如が挙げられる。要するに、「仕事ができないにしてもよほどのことがない限りクビにはすべきではない」という社会通念が反映されていると考えればよい。

しかし、最も大きな歯止めとしては労働組合の存在があると思う。
日本の労働組合組織率は低下傾向にあるが、大企業には必ずと言ってよいほど企業内組合があり、雇用を守るという点では、依然として大きな役割を果たしている。使用者は、組合がどう反応するかということを念頭に置きながら人事施策を進めていくので、恣意的または不当な解雇はほぼありえない(あったとしても裁判で負けるであろう)。

 
これに対し、中小規模が主体の外資系では、労働組合がない場合が多く、解雇に対する強力な歯止めがない。しっかりとした経営者と人事がいる会社なら問題は起きないだろうが、人の入れ替わりが激しく、いつもそうとばかりとは限らないのが外資系の宿命でもある。
 
採用面接をしていると、社長が変わった途端に追い出されたという話をよく聞かされる。ことの真偽は本人にしか分からないが、じっくりと腰を据えて仕事に取組み、成果を出し続けていくためには、「雇用の安定」が重要であることに改めて気づかされる。
 
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