外資で働く(28)-ヘッドカウント(Headcount)

外資系企業に入って感じたのは、人員管理が日本企業よりも厳格だということであった。

年度毎の予算を立ててグローバル本社の承認をもらうプロセスの中で、人員データはPLデータと並んで重要なものであり、「営業、マーケティング、製造、人事、経理・・・」といった職種毎に増減予想を示す表まで求められる。本社がローカルの人員管理にそこまで細かく首を突っ込んでくる必要はなかろうとの思いもないではないが、「人」を大切にする企業であれば、一人ひとりの採用にまで注意を払うのは当然という気もするし、安易に採用して簡単に切るような冷たい会社にならないためには必要な措置とも言える。

外資系企業では、業績が厳しくなると(赤字になるということではなく、予算達成が危うくなるということ)、本社から「Hiring Freeze(採用凍結)」の方針が出され、例外的に必要な人材を採用する場合にはポジション名と理由を本社が精査する手続きとなる。野放図な採用を牽制する意味合いもあるが思うが、こちらがきちんとした理由を説明すれば承認してくれることは多く、人員不足が原因でビジネスの成長を止めることにならないよう配慮はされている。

経理・人事・購買といったバックオフィス(Back Office)の少数精鋭管理も、日本企業より徹底している。人事(HR)の例でいえば、従業員100人に対し人事スタッフ1人という比率を目標に、業務の合理化や定常業務のアウトソース化(外部委託)を進めることで効率化を図る。人事スタッフは戦略的人事策の幹部への提言や、従業員とのコミュニケーション・カウンセリング等の業務にシフトすることを目指すのである。会社での仕事は、何らかの規制や目標がないと際限なく増えてしまう傾向があり、目的に照らして最適な業務量と質を実現する為には、このような指標管理も有意義だと思う(若干、窮屈ではあるが)。

報酬に見合う成果を出せないロー・パフォーマー(Low Performer、低業績者)は、退出勧告をされる。緊張感を持って業務に精励していればそのような目に会うことは少ないと思うが、伝統的日本企業とはかなり違う部分ではある。

他方、日本の伝統的大企業は人材採用の基本を新規学卒で行うから、このような日々の細かな人員管理はあまり行わない(非正規採用中心の流通・サービス業等を除く)。だが、好景気の際に大量採用した人員をそのまま抱え続けて景気が悪くなると一挙に大量の早期退職を募集し、退職金の特別加算を支払って当年のPLを赤字にする。翌年から人件費が大幅に減るから、見かけ上の業績はV字回復する。しかし、景気が回復してくるとまた人を採用する。日頃から業務効率の改善等の抜本的な対策を施さずに、このようなその場しのぎの人員対策を行なっていると、再び不景気になった途端にまた大量の早期退職を募集することになる。定年まで勤めあげることを期待しながら、毎日一生懸命働いている従業員からすれば晴天の霹靂である。人生設計・生活設計の見直しを迫られることになる。

外資系と日本企業、どちらの人員対策が会社や従業員にとって良いやり方なのかは、
個々人の志向性もあり、判断が難しいところであろう。

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