外資で働く(5)-賃金

外資と日本企業では、賃金制度や運用に大きな違いがある。これまでの経験から、ポイントをまとめてみる。
 
1.職務給的考え方が基本である:
日本の企業では、「職能給」即ち、能力に応じて上がっていく「属人給」賃金が主流であるが、元々は勤続年数をベースに設計してきているので、「役割給」などと言い方を変えてみても、年功的な要素が色濃く残っている。「職能給」は「長く勤めるほど経験も積んで優秀になる」という仮説に基づくものだが、ITスキル他の最先端の知識・経験が必要とされる昨今では、経験年数だけで実力を規定することは難しい。
   外資では、「職務給」即ち、担当する業務内容で処遇を決める、人ではなく「仕事に値札がつく」考え方が主流である。募集しているポジションを担える人間が社内にいなければ躊躇なく外部市場から調達するのが基本であり、勤続年数はほとんど関係ない。
 

2.モデル賃金的なものは存在しない:
日本の大企業に入ると、「入社して何年目で標準的にはいくらもらえる」という想定が多少はできる。「モデル賃金」と称して人事部門がこのようなデータを作成することが多く、春闘の際に、労働組合経由で組合員向けにこの種の情報が提供されることもある。イメージ図は、以下の通りである。

イメージ 1


従業員がモデル賃金を知ると、将来を目指して頑張ろうという気にもなれば、長く待ってもこの程度なら我慢できないと飛び出していく人もいる。

他方、外資の場合、管理職等の上位ポジションになればなるほど自分の賃金が将来どうなるかを予測することは難しい。

3.賃金水準の変動:
外資では、年齢・勤続に関係なく実力主義で報酬を決めるので、若くても優秀と認められれば管理職に昇進し、報酬が大幅に上昇する。他方、Low Performerだと分かれば報酬ダウンもありうる(賃金ダウンは労働基準法の範囲で適正に行われる)。毎年ちまちま定期昇給をしながら少しずつ上げていく日本企業とは大いに違うところである。

中途採用が頻繁に行われるため、賃金は外部市場の相場に強く影響される。高くても欲しい人材がいれば採るし、使ってみて期待した業績が上げられなければ下げることもある。日本の大企業のように年次管理で横並びということにはならない。
例えて言えば、ママチャリでだらだら坂を上っていくのと、ジェットコースターに乗るのと同じくらいの違いがある。

 
4.賃金水準:
年功ベースの日本企業と職務ベースの外資では比較の土俵が違うため、報酬水準を一概に論じることは難しい。しかし、専門職や管理職に限って言えば、外資の方が高い印象がある。理由としては以下のようなものが考えられる。

①個人実力ベースなので、高い人がいる替わりに低い人もいる。日本企業ではかなりのLow Performerでも労働組合が賃金水準を守ったりするからあまり下げられない。

②福利厚生より賃金中心に配分している。実力主義ということは、定年までの長期勤続を一律に期待しないことに通ずるから、人件費の大半はすぐに支払われる賃金(固定年収+ボーナス等の変動報酬)に費やされる。一方、日本の大企業は、各種手当、退職金から、労災付加補償、団体割引の傷害保険・生命保険に至るまで長期勤続を念頭に置いたベネフィットを用意しているので、総額人件費で比較すれば、日本企業と外資の差はそれほどでもないと思われる。

③経験上、外資の方が少数精鋭であると思う。グローバル本社によるHead Count(人員)管理が、日本企業にくらべるとはるかに厳しいからである。日本企業にしばしば見られるように、企業業績が落ち込んでも抜本的な対策を施さずに余剰人員を抱え続けたあげく、大量の早期退職に至るケースとどちらが従業員にとってマシなのかは考えどころである。
 
まとめをする。

賃金制度・運用について外資と日本企業のどちらが良いと思うかは個人の好みによる。長期に亘りじっくりと自分を成長させつつ貢献と報酬の帳尻を合わせていきたいと思う人や、安定的に家計を設計したい人は、日本企業にいた方が良い。
短期間に実力(と思われるもの)を認められたいと思う人は外資にチャレンジするのも良い。ただし、日頃から自分の実力とやりたいことを見定めておくことが重要である。これ次第で、転職する度に報酬が上がることもあれば、半分に下がることもある。
 
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