外資で働く(36)-外資系は簡単に解雇するのか?

解雇とは、会社と労働者の結んだ労働契約を、会社側の意思で一方的に終了させることであるが、外資系企業では従業員を簡単に解雇できるというのは本当か?
社労士として客観的にジャッジすれば、これは都市伝説と言わざるを得ない。
 

前のトピックで触れた通り、外資系企業であっても日本で労働者を雇用して事業を行う限りは、労働基準法を始めとする労働関連諸法の規制を受ける。判例の積み重ねによる考え方を2008年に明文化した「労働契約法」第十六条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあり、改正労働基準法の第十八条の二にも同じ条文が記載されている。法の建てつけとして経営側からの解雇は自由にできるが、「合理性」又は「相当性」を欠く解雇は無効とすることで事実上極めて厳しい解雇規制をしているのである。要するに、就業規則を守り誠実に業務を行う従業員が簡単に解雇されることは、外資系であっても日本企業であってもありえないことになるが、問題の本質は別のところにある。

日本の伝統的大企業と違い、多くの外資系企業には、一旦採用した人材を長い目で育てていこうというカルチャーが欠けている。一般に外資系企業の規模は小さいため、一人ひとりの従業員のパフォーマンスが会社業績に与える影響が大きいことから低業績者(ローパフォーマー)を抱え続ける余裕はないというのが理由のひとつであり、いつでも社外から代わりを採用できるという幻想を抱く経営者が多いことも影響している(外部からやってきてすぐに高業績を発揮できる人材は少ないのが現実なのだが・・・)。

外資系企業は、低業績者や勤務態度のよろしくない従業員に対して、「退職勧奨」をためらわずに行う。退職勧奨とは、
使用者が労働者に対して強制ではない退職の働きかけを行うことを指し、俗にいう「肩たたき」がこれに当たる。退職勧奨自体は社会通念を逸脱するようなやり方でなければ違法ではないが、ある日突然、上司から、「あなたは社外に道を探したらどうか」と告げられた場合、これに抗って会社に留まるのは精神的によほどタフな人でないと難しいだろう。「あなたはもういらない」という上司の下で働き続けるくらいなら、社外への転職の道を探るほうが自己の成長にはつながる可能性が高いとも言えよう。

外資系企業勤務の長い従業員は多かれ少なかれこのような宣告を受けた経験をしているので、比較的抵抗感は少ないであろうが、愉快なはずもない。だが、これが現実である。

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