会社の看板を背負う?

今から数十年前、就職活動をしていた頃、訪問先の企業の人から「会社の看板を背負って仕事をしているから責任重大だ」と言われたことがある。当時は、「へえ、そんなものかなあ」と思ったが、今は、看板を背負っていると考えるのは幻想と思い上がりに過ぎないのではないかと感じている。B to Bが主体の商売では、会社のブランドや総合力がものをいう場合が多いのは確かである。しかし逆に言えば、相手は最初からあなたなど見ておらず、あなたの所属している会社を見て取引をしているのである。

日本の大企業に長年勤めそれなりのポジションにつくと、意識の上で自分と会社が同一化し、自分が偉くなったと勘違いして、少しでも格下の企業や相手と接すると居丈高になる人がいるようである。

日本を代表する金融機関の部長さんとの間で2つの関連するビジネスの話があったが、互いのぼたんのかけ違いで一旦延期することになり、打開のための打合せの場を持った。その部長は会うなり険しい表情のまま、「お宅の内部事情はよく存じ上げないが、こちらは3回も○○に出張し、汗をかいているのだから、(あちらのビジネスで)期待する結果が出なかったとしても、(こちらの案件では)速やかに契約をしていただかないと困ります。御社のせいで△△(部長氏の部下の名前)は社内的に罰点がついてしまっている。このままいくと会社対会社の関係にも響きますョ。」と恫喝ともとれるねじ込みをしてきた。

自分が会社を代表して決裁すると言わんばかりの傲慢な態度に辟易したので、途中で話を打ち切ってお引き取り願ったが、相手はこちら側の想定外のリアクションに面食らったようである。今まで相手をしてきた会社の多くは、「看板」に恐れをなして「ハイハイ」と言うことを聞いてきたのだろうが、こんなことを続けていれば、悪評が回りまわっていずれは上司にも伝わり、自分の身に跳ね返ってくるとは考えないのであろうか。


「会社」という組織の中で与えられたポジションは、所詮は、砂上の楼閣に過ぎない。これを堅固なコンクリートに変えていくのは、本人の人格と、一つ一つの仕事に真摯に取り組むことを通じて相手方から得た信頼の総和の力である。いかなる状況にあっても、自分が会社を背負っているなどと気負わずに、謙虚かつ真摯にやるべきことをやるだけの話である。
 
だれでも、自分を高くする者は低くされ、
自分を低くする者は高くされます。
        マタイ23:12